2007年2月のこびん

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<第0341号 2007年2月25日(日)>

       ユキヤナギ

         ユキヤナギ
         そう呼んでごらん
         
         ささやくように
         呼びかけてごらん
         
         開きかけた
         小さな白い花
         
         まだ冷たい風に
         止まることなく揺れて
         
         ユキヤナギ
         そう呼んでごらん
         
         ささやくように
         呼びかけてごらん
         
         春の気配を
         だれよりもはやく
         
         やさしい気遣いのように
         あなたにとどけてくれるから


   * 挿一輪 *

 歩いていたら、風に揺れる細い枝に目が止まりました。
 よく見ると白い小さな花が、ひとつふたつ。
 
 小さなユキヤナギの花でした。
 
 ひなたのあたたかさに誘われて、開いたばかりなのでしょう。
 でも、太陽が雲に隠れてしまうと、冷たい北風の冬に逆戻りです。
 
 それでも、揺れる枝にしがみつく白い小さな花は、
 見ている私を気遣うように、
 もうすぐ春が来るからね、そういっているように思えました。
 
 ユキヤナギ。
 
 春への道のりは、もう少し先かもしれませんが、
 春への想いを少しでも早く受け取りたくて、
 その小さな花の名前を呼んでみました。


<第0340号 2007年2月18日(日)>

       しもばしら

         いつも
         見えないところで
         麦の芽をささえている
         水
         
         今朝は
         あまりに寒いので
         思わずウンと
         がんばった
         
         一列の
         小さな緑の
         麦の芽にそって
         
         一列の
         キラキラ銀の
         しもばしら


   * 挿一輪 *

 寒い朝のしもばしら。
 踏むとサクッと音がします。
 
 いつも地下にもぐっている水は、縁の下の力持ち。
 冷え込む冬の朝にしか、形として見ることができません。
 
 近所の畑では、もう麦が植えられています。
 でも、冷たい風と乾燥した空気で、小さな体は辛そうです。
 
 その麦の小さな緑の芽を、地下で支える水たち。
 こうしていつもそばにいるんだよ。
 もののみごとに、並ぶようにしもばしらが一列。
 
 緑と銀の縞模様が並んでいるのは、ほほえましく、
 見ているだけで元気を与えてくれます。
 
 だれもそばにいないと思っても、
 こうして目に見えないところで、
 かならずだれかが支えてくれている。
 
 あなただって例外ではありません。
 いのちは、ひとつでは生きてゆくことはできません。
 
 冬の寒い日しかり、
 人生でも冷え込みの辛い日しかり、
 ふと、
 あなたを支えているなにかが、顔をだすかもしれませんよ。


<第0339号 2007年2月11日(日)>

       あのころ

         ふくらんでゆく
         目薬の一滴を
         じっと待ち受ける
         子ども
         
         心臓の鼓動を
         吸い取ってゆく
         すこしだけ
         かしいだ空
         
         薄くスライスされた
         冬の光
         さくっとかめそうな
         梅の花の香り
         
         忘れていた哀しみで折った
         まっしろな紙飛行機
         
         海からの風よ
         連れてゆけ
         わたしの一番長い日に


   * 挿一輪 *

 あのころは一日が長かったのです。
 
 子どものころの話です。
 もう何十年前のこと?
 
 今から思えば、
 取るに足らないことが、とても大きなことに見え、
 二度と得られない貴重なものを、恐れも知らずに使い放題をして。
 
 もったいなかったな、と思いながら、
 もしも、もう一度戻ってみても、
 同じことをするかもしれません。
 
 懲りないというか、
 あのころの特権だったというか。
 
 ほんとうに、
 あのころは一日が長かったのです。


<第0338号 2007年2月4日(日)>

       立春

         そのことばを聞くと
         からだが
         ゆらゆらする
         
         そのことばを聞くと
         はなが
         くんくんする
         
         そのことばを聞くと
         めが
         ふるふるする
         
         そのことばを聞くと
         みみが
         さわさわする
         
         そのことばを聞くと
         おもいが
         しんしんする
         
         りっしゅん
         りっしゅん
         立春
         
         わざと乱暴な字で
         新しいノートのまんなかに
         大きく書いたっけ
         
         春の入口は
         涙の出口のように
         動き出したら
         止まらない


   * 挿一輪 *

 3日節分。
 4日立春。
 短い2月が始まりました。
 
 節分は豆まきをするので、
 子どもごころにも忘れない行事なのですが、
 立春を意識するのは、
 もう少しあとになってからでしょうか。
 
 雪におおわれた地方もあるなかで、
 立春はまだ、春からは遠いところにありますが、
 「りっしゅん」
 そのことばを聞くだけで、
 不思議に五感が反応してしまいます。
 
 春のいまだ訪れない前の、
 「春立ちぬ」ということば。
 
 青春の入口である思春期の、
 不安と期待が入り混じった、
 妙にそわそわとした、
 甘酸っぱさが思い出されます。
 
 青春は一度だけ?
 でも、季節の春は、毎年かならず巡ってきます。
 だれにでも、わけへだてなく、寄り添うように。
 
 だからこそ、
 探しに行きたくなってしまうのではないでしょうか。
 
 あなたも、
 小さな春、身近に探してみませんか?






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