2007年3月のこびん

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<第0345号 2007年3月25日(日)>

       理由

         立ち止まる
         
         ひだまりで
         輝いている
         足元のたんぽぽ
         
         立ち止まる
         
         ふくらんだ
         木の芽の上
         さえずる小鳥
         
         立ち止まる
         
         潮風のたより
         届けてくる
         ささやく南風
         
         帰る家は決まっている
         帰る時間も
         おそらく決まっている
         
         ならば
         なんどでも
         立ち止まろうではないか
         
         だれのものでもない
         わたしだけの
         理由で


   * 挿一輪 *

 歩いていて、ふと立ち止まる。
 そんなことがありませんか。
 
 なにかに目が止まったのかもしれませんし、
 目に見えないものに、こころを動かされたのかもしれません。
 
 目的地が決まっていて、
 約束の時間が決まっていて、
 それでもどうしても気になって、立ち止まってしまいます。
 
 それほどはっきりした理由がないと思ってみても、
 ここで自分を引き止めたのは、
 なぜだろうって、考えてみると、
 新しい発見があるかもしれません。
 
 今まで気がつかなかった、立ち止まる理由。
 他人がみんな通り過ぎて行くのに、
 自分だけが立ち止まって、じっと見つめる理由。
 
 大切なことを思い出させてくれるのかもしれません。
 新しいなにかを教えてくれるのかもしれません。
 
 長いようで、ほんのわずかの道のり。
 考えてみれば、一生の道のりに似ているのかもしれませんね。


<第0344号 2007年3月18日(日)>

       雨を包む

         雨を包む
         降りてきた銀の時間を包む
         やわらかく溶けたことばを包む
         
         てのひらは受け皿
         大地とおなじいのちの受け皿
         たしかに届いた伝言
         
         そっと唇に触れてみる
         そっとほほに触れてみる
         ふるさとのこころに
         忘れたやさしさに触れてみる
         
         雨を包む
         わたしのてのひらで包む
         あつい時間で包む
         
         ほら
         ちいさな虹がうまれる
         光はどこからやってくる
         
         空の彼方の
         輝く恒星からだけではない
         わたしという星の
         とっくとっく
         とまることのない鼓動からもやってくる


   * 挿一輪 *

 春先になると雨の日が増えてきます。
 
 三寒四温、気温の変化とともに、
 雨と太陽も交互に訪れ、いのちたちに恩恵を与えてくれます。
 
 
 それにしても、
 雨は降りてくるあいだに、なにを見てくるのでしょうか?
 
 地上までの時間は短いのかもしれませんが、
 はるか上空高く、雲だったときに見てきたもの、
 太陽の光から受けたもの、
 伝言のような形で、その小さな水の粒に含んでいるかもしれません。
 
 もしかしたら魔法の呪文がかかっていて、
 降り立ったところで、
 光を受けるとその伝言が聞けるのかもしれません。
 
 太陽の光との再会で立つ、不思議な七色の伝言。
 虹は、もしかしたらそんな解けた呪文なのかもしれません。
 
 光り輝く恒星と同じエネルギーが、
 わたしたちいのちのなかにもあるのなら、
 雨との出会いによって、その伝言を開くことができます。
 
 
 てのひらに受けた雨の粒に、
 小さな虹が立ったなら、
 雨のことばに、耳をかたむけてみてくださいね。


<第0343号 2007年3月11日(日)>

       ギョーザ

         丸く白い皮に包む
         
         細かく切った具を
         混ぜこぜにして包む
         
         今日一日のはじめ
         真っ白だった自分に
         笑ったり怒ったり
         出会ったり傷つけたり
         
         細かく切った時間を
         まぜこぜにして包む
         
         まわりにすーっと水をつけ
         ていねいに
         ひだをつけてゆく
         
         中身の具の匂いがぷんとする
         中身の時間が遡って浮かぶ
         すこし強く力が入って
         皮が破れる
         
         ギョーザがいけない
         皮が薄いから
         ごめんわたしがいけない
         ていねいにやらないから
         
         ごめんあなた
         ごめん彼
         ごめん彼女
         
         詰めすぎたんだね
         こんなに具をたくさん
         詰めすぎたんだね
         もっとふわふわしていればいいのに
         
         程度ってもの
         考えればいいのに
         ギョーザの皮の大きさ
         入る目分量
         いつもこうして不器用にパンク
         
         ぽろぽろと時間が落ちて
         ぽろぽろと後悔が落ちて
         
         これでギョーザの皮にひだをつけると
         しょっぱいギョーザができるかな
         
         丸く白い皮に包む
         
         細かく切った具を
         混ぜこぜにして包む
         
         ひとつふたつみっつよっつ
         ふぞろいのギョーザが
         いつもと同じ
         わたしのお皿につみあがる


   * 挿一輪 *

 ギョーザでした、昨夜は。
 
 元来、不器用なので、いつまでたっても包むのが下手です。
 上手な人に聞くと、慣れだといいますが、
 器用、不器用は、仕方がありません。
 
 中に詰める具が少ないと、包むのが楽ですが、
 食べたときに、どこか損をしたような気になります。
 
 といって、少し気をぬくと、多すぎてパンクします。
 適量を、ていねいに。
 
 ギョーザの皮を包みながら、
 今日一日のことを思い起こすことがあります。
 
 いつまでたっても、不器用です。
 気をつけていても、ふっと気が緩んだ瞬間、
 あ、しまった、って。
 
 皮を破いてしまったときの情けない感触です。
 
 でも、
 ギョーザの皮を包むのは、楽しいものです。
 下手なりに、つみあがってゆくギョーザを見ています。
 
 明日も、またなにかやらかすのだろうな・・・。
 明日は、どんな具をいれるのかな・・・。
 
 とびっきりステキなギョーザができるのは、いつでしょうか?


<第0342号 2007年3月4日(日)>

       白蓮

         真っ白な衣
         重ねられた産着
         じっと眠っていた
         
         くすぐるような
         声にならないことば
         どこかで呼ぶ
         
         吹き抜ける風は冷たい
         あたたかな陽もわずか
         それでもちがう
         きのうとはどこかちがう
         
         約束の時間
         かならず目覚める時間
         待っているのはあなた
         待っているのはわたし


   * 挿一輪 *

 白いモクレンの花が咲きました。
 
 樹の先の小さな硬い芽がふくらみ、
 少し色が薄くなってきたと思ったら、
 なかから白い羽二重が顔を出しました。
 
 人間は裸で生まれてくるのですが、
 もくれんの花は、重ねられた花びらに包まれて生まれてくるのですね。
 
 目覚めたばかりの産声は、
 しんとした、けれどくすぐったいような、
 春の陽だまりの静けさでしょうか。
 
 背の高い樹なので、いつも見上げているのですが、
 青空をバックにしての真っ白な花。
 陽光に輝いているのを見ると、
 ほんとうに、春をはっきりと意識したくなります。
 
 花の咲いているあいだ、
 吹き抜ける風や、流れる雲と、どんな会話をしているのでしょうか?
 
 でも、考えてみると、
 白い花が散った後でも、緑の大きな葉で、
 葉の落ちた冬でも、伸びた枝で、
 きっと語り合っているのかもしれませんね。
 
 四季を通じて、様々な形をとりながら、いのちは生きています。
 人間の衣替えより、ずっと合理的なように思えませんか?



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