2007年7月のこびん

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<第0363号 2007年7月29日(日)>

       青の瞳

         青い空に飛び込む
         一瞬水しぶきが上がり
         空が消える
         
         見上げると
         はるか上に空はある
         青い風が降りてくる
         
         水面にタッチして風が昇る
         風のしっぽを思わず握る
         濡れたからだがぐんと上がり
         
         まだ陽に焼けていない白いからだ
         そのまま流れる雲になる
         ほら白いイルカを追いかけろ
         
         夢のことばは天日干し
         哀しい昨日はとかしてソーダ
         今は今しかないのだから
         
         右へ左へ曲がって上へ
         流れてくるりと宙返り
         鼻の奥がつんとしたら
         
         青の瞳のまんなかで
         少女漫画の瞳のように
         きらりきらりと光るだけ


   * 挿一輪 *

 夏ですね。
 
 プールのそばを通りかかったら、
 青空をそのまま切り抜いたように、
 水面が揺れていました。
 
 プールに飛び込む人も、
 ここから見たなら、
 まるで空のまんなかに飛び込むようでした。
 
 こんな日は、
 今日という日が、
 昨日と明日に挟まれていることなど忘れて、
 今そのものを楽しみたいですね。


<第0362号 2007年7月22日(日)>

       大きな

         空に
         絵を描きたいけれど
         空に描く
         筆がない
         
         空くらい
         大きなカンバスに
         たっぷり絵の具をつけて
         大きな筆で
         
         何日も
         何日も
         描きつづけて
         やっと完成したけれど
         
         満足して
         しばらく歩いて
         振り返ったなら
         指で作った丸より小さい
         
         どんなに歩いて離れても
         どんなに大きな丸を作っても
         ほんとうの空は
         入りきれないよ
         
         どんなに大きな立て看板も
         やっぱり
         空には勝てないよ


   * 挿一輪 *

 立て看板に絵を描いて、ブロックごとに競い合うのが、
 母校の高校の体育祭の伝統です。
 
 高校の3学年を縦割りのブロックにして、
 それぞれのオリジナルの衣装で仮装をして、
 一つのテーマを決めての踊り、
 そして立て看板、
 総合で順位を決めてゆきます。
 
 絵の上手な同級生、美術部の部員のいるブロックが、
 立て看板には有利なのですが、
 現役時代は人数も多く、
 10以上の立て看板が、ズラッと校庭を囲み圧巻でした。
 
 
 大きな立て看板は、
 真下で見ると、空をも圧する迫力ですが、
 遠めに見ると、天井のない美術館の絵のようで、
 ひとつひとつが小さく見えます。
 
 それに比べ、見上げると、
 ほんとうの空の広さと大きさ。
 
 自分たちが作ったものと比較すればするほど、
 自然の大きさが、
 不思議と感じられる瞬間ですね。


<第0361号 2007年7月15日(日)>

       ふってほしくないときは

         ふってほしくない
         大きな葉の下から
         とびたった
         もんしろちょうには
         
         ふってほしくない
         おろしたてのサンダルで
         一歩をふみだした
         ちいさな女の子には
         
         ふってほしくない
         夏祭りの準備で
         張られて伸びる
         しめなわには
         
         手をまっすぐに伸ばし
         あの雲をつんとつっついたら
         表面張力が崩れるように
         きっと落ちてくる
         水の粒
         
         ふってほしくない
         もう少しだけでも
         ふってほしくない
         
         だから
         雲に気がつかないふりをして
         心配顔をしないようにして
         タチアオイをかすかに揺らす風のように
         しずかに
         すべるように
         歩いてゆこう


   * 挿一輪 *

 梅雨空が続きます。
 
 仕方がないとは思いながら、
 どうしても雨にふってほしくないと思うことがあります。
 
 願ったからといって、雨が降らないわけではありませんが、
 もしかしたら、行いしだいでは少し遅れるかもしれない、
 そんな期待がでてきてしまいそうです。
 
 てるてるぼうずを作るのと同じ気持ちでしょうか。
 
 
 雨がきらいなわけではありませんが、
 できたら、こんな日は晴れたらいいのにな、と、
 思う日があります。
 
 でも、恨み顔で雲を見上げると、
 それだけで雨がふってきそうです。
 
 いっそ、知らん振りしたり、
 いっそ、楽しいことを考えたり、
 梅雨をそれなりに楽しんですごしたいですね。


<第0360号 2007年7月8日(日)>

       さがしていませんか

         さがしていませんか
         ありがとう
         を
         空のかなたに
         
         さがしていませんか
         ありがとう
         を
         着飾った肖像画に
         
         色あせてしまった
         小さな鈴のついた
         玄関のかぎ
         
         ドアノブにさしこんで
         あけたときに
         すっと寄り添う匂い
         
         はっきりと
         約束したわけでもないのに
         包まれた時間
         
         いつのまにか用意されている
         今日という
         真っ白なキャンバス
         
         さがしていませんか
         ありがとう
         を
         
         背伸びして
         背伸びして
         ほんとうのありがとうの
         背中越しに


   * 挿一輪 *

 ありがとうは、改まってさがすものではありません、
 ありがとうは、そっと寄り添っているものです。
 
 なにげないものだからこそ、とても大切なものです。
 大切なものって、目立たないものです。
 
 なくして、はじめて気がつくものです。
 いいえ、
 なくさないと、気がつかないものです。
 
 その失敗を一つでも少なくすることが、
 自分をしっかりと生きてゆく、
 たしかなひけつかもしれません。
 
 
 自分が包まれているものを、いつも確認すること、
 そして、決しておろそかにせず感謝すること。
 
 いまの場所に、
 いまの時間に、
 いまの拍動に
 ありがとうをいいたいですね。


<第0359号 2007年7月1日(日)>

       夏が来る

         土に刺した
         アイスキャンディーの
         一本の棒
         
         くっきりと
         影ができて
         日時計
         
         花の写真を
         切り抜いて貼って
         咲く楽しみ
         
         折り紙を
         ピンで留めて
         風車
         
         小さく
         名前を書いて
         金魚のお墓
         
         なんにもなかった
         庭の片隅に
         自分だけの
         秘密のスペース
         
         ぽたりと
         汗が地面に染み込んだような
         影
         
         また
         暑い
         あの夏がやってくる


   * 挿一輪 *

 アイスキャンディーが好きです。
 
 ミルクやチョコもいいけれど、
 オレンジシャーベットがいちばん。
 
 暑い夏は、
 溶けるのと食べ終わるのと、どちらが早いか競争です。
 
 下に一滴も落とさずに食べ終えることができたのは、
 いつからなのでしょうか。
 
 食べ終わったあとのキャンディーの棒。
 意外と捨てられないんです。
 
 なかには、
 当たりはずれが書いてあるのもありましたが、
 なにも書いていない普通の棒でも、
 妙に名残惜しくはありませんでしたか。
 
 小さな地べた(地面をそう呼んでいました)と、一本の棒。
 それだけで無限に広がる遊びの世界。
 
 夏のぎらぎらと照りつける太陽の下。
 
 夏の想い出は、
 しゃがみこんだ足元に、
 影のように落ちているような気がしませんか?



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