2007年8月のこびん

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<第0367号 2007年8月26日(日)>

       風

         ほら
         大きな
         風の背中
         
         あなたはからだの奥で感じて
         種を投げる
         
         だれに教えられたわけではなく
         だれにうながされたわけでもなく
         
         種は笑いながら
         風の背中に乗る
         
         まるで
         大きな父親の背中に
         笑いとともにとびついた
         あのときの
         あなたのように
         
         空にはりんかくがない
         空蝉の飴色のりんかくがない
         
         あるとすれば
         種を仮の姿にする
         新しい
         いのちの約束
         
         空に生まれた風は
         だから
         いのちをいつも導く
         
         少し湿ったもうひとつの背中
         母なる大地に種を下ろし
         
         もういちどあなたの元へ
         また新たな種をもらいにゆく


   * 挿一輪 *

 風に乗って飛んでゆく種。
 
 その光景を想像するだけで楽しいです。
 
 風の視線になってもいいですし、
 種の身になってみてもいい。
 
 送り出す植物の気持ちになってもいいですし、
 受け取る大地の想いになってもいい。
 
 ひとつの物語が、
 だれを主人公としてもいいほどに、
 淡々と映画のカメラワークのように過ぎてゆきます。
 
 種というりんかくをまとったいのちが、
 中心のようにみえて、
 実は驚くほどのスケールで、
 いのちと成長が、
 サポートされています。
 
 一見、色も形もない風に、
 その想いを感じることがあります。
 
 いちばんそのことを知っているのは、
 その背中に乗って運ばれる、
 種自身なのかもしれませんね。


<第0366号 2007年8月19日(日)>

       もうひとつの出発

         戻ってみると
         違いがわかる
         
         同じ風景のようで
         どこか違う
         
         このまえここに立ったとき
         ふたたびここに立ったとき
         
         あのとき見えてなかった足元が
         あのとき見えてなかった周囲が
         
         いまは
         しんとした
         音のない充実感のなかで
         ゆっくりと見守っている
         
         そう
         行って経験して
         帰って来たからこそ
         もう一度
         できる
         
         戻ってみると
         違いがわかる
         
         そのことで
         次の新しい一歩が
         
         似ているようで
         くらべようのないくらい
         力強い一歩が
         
         踏み出せる
         わたしには
         歩み出すことができる


   * 挿一輪 *

 やられた、と、茫然自失になったとき、
 もう終わり、と、目の前の目標を失ったとき、
 はじめて、戻ってくるところがあります。
 
 これ以上、マイナスにならない、
 そう、この旅の出発地点です。
 
 
 なぜ、そこに戻るのか?
 いえ、
 なぜ、だれかがそこに戻してくれたのか?
 
 きっと、出発点に立って、
 異なる風景を、
 しっかりと見てほしいからでしょうか。
 
 あのときと同じ地点。
 希望と、なにも恐れのなかった、
 まっすぐ前を見ていればよかった、
 あのときの地点。
 
 
 でも、いまは違います。
 その違いが痛いほどわかります。
 わかったうえで。
 
 もう一度この道を歩んでください、
 そのメッセージが伝わります。
 
 もう、大きな経験がありますね。
 同じことがおこっても、
 力強く生きることができますね。
 
 
 リスタート。
 
 そう、そのために、
 もっと強くこの道を究めるために、
 もういちど、戻してくれたのです。
 
 違った風景。
 それがわかったとたん、
 あなたは、力強い一歩を踏み出せます、
 しっかりと、地に付いた足取りで。


<第0365号 2007年8月12日(日)>

       ひまわり

         わたしが
         両手を
         うんと伸ばしても
         はるか上に
         花がある
         
         わたしが
         顔を
         うんと突き出しても
         もっと大きな
         花がある
         
         それなのに
         ひまわりよ
         
         なぜに
         爪先立ちになってまで
         空に刺さる
         
         なぜに
         あきることのなく
         空を仰ぐ
         
         日をさえぎる麦藁帽子も
         汗をふく白いタオルも
         風を呼ぶ小さな日陰も
         これっぽっちも必要としない
         
         夏のまんなかでは
         夏になるしかない
         
         ひまわりは
         きっぱりと
         もうひとつの太陽になる


   * 挿一輪 *

 堂々としたひまわりが、
 夏の晴天につきささっています。
 
 真下から見上げても、
 上向きの花は見えません。
 
 久しぶりに大きなひまわりの花と出会いました。
 
 夏というと、ひまわりの花が浮かびますが、
 けっこう不思議な花だと思います。
 
 太陽をかたちどったような花。
 大きく重い花をそれでも上向きにして、
 種をつくるまで頭を垂れない力強さ。
 ほぼ花いっぱいの真っ黒なびっしりの種。
 
 夏の炎天下に、
 これほど似合う花はないように思います。
 
 「地上の星」という曲がありましたが、
 まさに「地上の太陽」。
 
 しばらく見とれていたわたしは、
 帽子と汗拭きのタオルを、
 片時も手放せなかったのですが。


<第0364号 2007年8月5日(日)>

       おかえりなさい

         気になったときに
         どうしたの と
         短いひとことでも
         伝えたらよかったのに
         
         いつのまにか
         若葉がのび
         陽射しが汗を呼び
         梅雨の季節をむかえ
         
         忘れたつもりでも
         ふと語りかける
         なにげないキーワード
         透明な気配に振り返る
         
         新しい夏の季節が扉を開ける頃
         控えめのノックとともに
         届いたのは
         あなたからの見慣れた
         たより
         
         おかえりなさい
         
         巡りあった
         なつかしい風景のなかに
         言いそびれてしまった
         ことばをつらね
         紙飛行機に折り
         思いっきり飛ばす
         
         真っ白な雲
         ひた寄せる深い青
         この空いっぱいの風に
         ことばがみんな溶けたとき
         
         それが
         ほんとうの
         瑠璃色の空
         あなたへの
         おかえりなさい


   * 挿一輪 *

 手紙で紙飛行機を折り、
 吹いてきた風に乗せて、
 飛ばしたことはありますか。
 
 映画のシーンのようですが、
 願わくは上昇気流に乗って、
 どこまでもどこまでも、
 飛んでいってほしいですね。
 
 
 実際にはむずかしいのでしょうが、
 こころの空では、
 それこそどこまでも、
 飛ばすことが自由にできます。
 
 さて、
 あなたはいったい、
 どんな手紙を書いて、
 どんな空にとばしたいですか?
 
 あえて誰にとは聞きません。
 なぜなら、
 その答えはきっと、
 あなた自身のこころの空に、
 あるのかもしれませんから。



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