2007年10月のこびん

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<第0376号 2007年10月28日(日)>

       葉のことば

         ことばが
         見えたなら
         どんなものだろう
         
         たとえば
         葉のかたちになったなら
         どんなものだろう
         
         やさしいことばは
         やわらかな新緑で
         
         力強いことばは
         真夏の大きな葉
         
         詩人のことばは
         色づきはじめた紅葉で
         
         長老のことばは
         赤銅色の枯れ葉
         
         いつくしむように
         かすかにゆれることも
         
         怒りをもって
         大きくゆれることも
         
         もし目に見えたなら
         発した自分にも見えたなら
         話し合うお互い同士見えたなら
         
         もっと
         ていねいに
         慎重に選ぶのかもしれない
         
         ことばの葉は
         すぐには消えないのだから
         ゆらす風が
         あまねくみんなに
         伝えるのだろうから


   * 挿一輪 *

 ことばは見えません。
 録音でもしなければ形には残りません。
 
 毎日話しているかぞえきれないことば、
 聞いているそれ以上のことば、
 形に残している人はいないでしょう。
 
 忘れるということは便利なことです。
 口から発したことばは、
 決して見ることができないので、
 忘れてしまえば形すら残りません。
 
 目の前の様々なことばを、
 もし形にして見ることができたなら、
 きっと気持ち悪くなるかもしれませんね。
 
 ステキなことばや、
 楽しいワクワクすることばもありますが、
 傷つき恐ろしくなることばもたくさんあります。
 
 自分で無意識に口から出ることばたち。
 
 形のあるものとして、
 慎重にことばにしたいと思います。
 
 あなたの口から出ることば、
 葉に例えたなら、
 どんな葉になるのでしょうか?


<第0375号 2007年10月21日(日)>

       わらって

         おなじものは
         ない
         
         おなじものではないから
         かならずちがう
         
         ちがっているけれど
         まちがってはいない
         
         まちがっていないから
         みんなただしい
         
         でも
         ただしいとおもうと
         みんなおなじになる
         
         おなじものは
         ない
         
         ちがっているけれど
         まちがってはいない
         
         そこでやめて
         じぶんをみて
         そらをみる
         
         ふっと
         かぜをかんじたら
         
         わらって
         あるきだせばいい


   * 挿一輪 *

 おなじものはないと思います。
 似ているものはたくさんあるけれど、
 比べるとどこかちがいます。
 
 それでいいのではないかと、
 そこで認めて終わりにしてもいいのですが、
 おせっかいな気持ちがでてきてしまいます。
 
 優劣をつけてしまうことです。
 正誤をつけてしまうことです。
 
 たったひとつのもの、
 そう思いながらも、
 でも・・・と続いてしまいます。
 
 おなじものはない。
 ちがっている。
 
 そこでふと視点を変えて、
 それを見ている自分と、
 自分をみおろしている空に、
 こころを移してみませんか。
 
 たったひとつのものが、そこにある。
 だから、
 しっかりと歩いてゆこう。
 
 秋の空は高いです。
 秋の風は気持ちがいいです。
 
 自然に笑顔になって。
 ほら、大切な一日をすごしませんか?


<第0374号 2007年10月14日(日)>

       金木犀

         きっと
         気がついていた
         
         黄金色の小さな花が
         そっと目覚めたときに
         
         少し高い
         けれどめだたない
         樹のあいだから
         
         わたしの姿を
         じっと見ていたんだ
         
         いつもの風景のなかを
         うつむきかげんに
         歩いていたわたしは
         
         その匂いで
         教えられるまで
         立ち止まることさえ
         忘れていた
         
         おかえりなさい
         金木犀
         
         風の止まった夕暮れ時に
         秋のことばを
         かたりあおう


   * 挿一輪 *

 歩いているだけでわかりました。
 あ、金木犀。
 
 うつむいて歩いていても、
 考えごとをしながら歩いていても、
 ふっと匂います。
 
 強い匂いを嫌う人もいますが、
 秋を感じる匂いのひとつです。
 
 匂いがないと、
 まったくといっていいほど目立たない樹です。
 
 匂いを追って、
 黄金色の花を見つけるのが楽しみですが、
 匂いの前に花を見つけることは、めったにありません。
 
 金木犀のほうは、
 とっくにこちらのことに、
 気がついているのでしょうに。
 
 ふだん目立たなくても、
 なにかがきっかけで探したくなることがある。
 
 金木犀だけではないような気がしませんか?


<第0373号 2007年10月7日(日)>

       秋のツユクサ

         秋の陽だまりに
         ツユクサの花が
         ひっそりと咲いた
         
         青空色の
         二つの耳を
         アンテナのように広げて
         
         秋の空は
         無関心のように
         青く澄んでいる
         ふりをしながら
         
         自分の子どもを
         そっと見守るように
         樹々のあいだから
         みつめている
         
         音もなく
         光る風の使いがやってきて
         青い耳を
         揺らすだろう
         
         帰ろうよ
         あの秋の空に


   * 挿一輪 *

 ススキの穂が出てきたのに、
 片すみにうもれるように、
 小さなツユクサが咲いていました。
 
 夏の頃の勢いはもうなく、
 数えるほどの花が、
 陽だまりのなかで揺れていました。
 
 久しぶりの青空で、
 とても気持ちの良い朝でしたが、
 この澄んだ青空と、
 まるで親子のような似た色合い。
 
 ツユクサの青い色は、
 秋の空に負けないくらい、
 はっとさせられる青でした。
 
 ツユクサは、
 秋の空に帰るために、
 ずっと咲き続けていたのでしょうか。




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