2007年11月のこびん

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<第0380号 2007年11月25日(日)>

       球根

         そっと
         両手で包んでみる
         
         ひなたで
         ほほを近づけてみる
         
         枯れ草と土のにおいが
         ほんのりと
         たちのぼる
         
         みみたぶあたりに
         いのちの
         つぶやきがとどく
         
         きびしい冬をこえて
         あたらしい春がめざめるとき
         
         この無粋ないのちの袋から
         ゆっくりと
         かがやく芽が生まれるのなら
         
         わたしは
         このまま
         土になってもいい
         
         この球根を育てる
         この希望を育てる
         
         ひとつかみの
         土になってもいい


   * 挿一輪 *

 球根をてのひらに乗せると、
 あたたかなぬくもりを感じます。
 
 ひなたにおいてあったからでしょうか。
 それとも、
 いのちのもっているあたたかさでしょうか。
 
 両手で包むと、
 いのちの交感ができるような気がします。
 
 見守ってあげたいと思います。
 もう一歩、
 育ててあげたいという気持ちまでおこります。
 
 不思議な気持ちですね。
 
 これから厳しい冬になりますが、
 球根を見ていると、
 春を待つことができそうな気がします。
 
 希望。
 
 球根は、
 いのちとともに、
 希望を詰め込んでいるから、
 あたたかいのかもしれませんね。
 
 そうそう、
 あなただって、
 球根ですよ。
 
 どんな芽が出てくるのでしょうか?


<第0379号 2007年11月18日(日)>

       夕凪

         パステルで描いた
         海の絵
         
         ひなたにおいたら
         海風が髪をゆらす
         
         頬杖をついて
         じっと目を閉じたなら
         
         秋の短い陽は
         濃いオレンジに溶けてゆき
         
         ほら
         風が止まった
         
         このまま
         絵のなかに
         帰ろう


   * 挿一輪 *

 秋の一日は短いです。
 陽がかたむきはじめたなと思っていたら、
 もうオレンジ色の西日です。
 
 いままで吹いていた風も、
 このひとときは、
 どこかで休んでいるのでしょうか。
 
 この瞬間に、
 不思議なとびらが開き、
 どこか別の世界にゆくことができそうです。
 
 あなたはどこへゆきますか?
 
 海の絵を見ていると、
 なつかしいふるさとに、
 帰ってみたくなりますね。
 
 生まれる前のふるさとに。


<第0378号 2007年11月11日(日)>

       たわわ

         ほっぺたを
         おもいっきり
         ぷーっと
         ふくらました柿が
         たわわ
         
         ぷちんと
         音をたてて
         はじけてしまいそうな
         どんぐりの実が
         たわわ
         
         風が呼ぶと
         矢車になって
         とんでゆきそうな
         野菊の花が
         たわわ
         
         どこから
         どこまでも
         頭も尻尾もみえない
         雲の魚のうろこが
         たわわ
         
         ああちゃんとこの
         赤ん坊が
         小さなくしゃみをしただけで
         たわわが
         いっせいに
         落ちてきそうで
         
         大地のてのひらは
         秋の陽だまりに
         朝からずっと
         ひらきっぱなしです


   * 挿一輪 *

 秋は実りの季節です。
 
 どこもかしこも冬支度のせいでしょうか、
 たわわに実っています。
 
 道を歩いてそんな「たわわ」に出会うたびに、
 わーっといって立ち止まりしげしげと見ています。
 
 きっと変な人に見られるのではないかと思っていても、
 またしばらく歩いて、
 わーっといって立ち止まります。
 
 樹にしろ花にしろ、
 そして空の雲までみごとに集団です。
 
 実ったものは大地に帰ります。
 実りとは大地への帰る支度をしているのです。
 
 樹の実りは、次のいのちの準備に。
 空の実りは、次の慈雨の準備に。
 
 あなたのなかの実りはいかがですか?
 
 もしなくても大丈夫です。
 これからゆっくりと種を見つける時間があります。
 
 種をまき、育て、実りをむかえる。
 次の秋に、
 あなたはどんな「たわわ」をつけるのでしょうね。


<第0377号 2007年11月4日(日)>

       窓

         ほっそりとした指で
         結露した窓に
         あなたは文字を書く
         ワ・タ・シ
         
         ベランダには
         しおれたバラの花
         指が動くたびに
         くすんだ文字が浮き出てくる
         
         あなたの指は
         ためらうように
         あきらめるように止まる
         文字の色のため息をついて
         すわりこむ
         
         ふと
         だれかの声が耳に届く
         もういちど見てごらん
         ワ・タ・シ
         の色を
         
         文字の色は
         あざやかなスカイブルー
         あなたははっと気がついたように
         窓の水滴を大きくぬぐって
         
         空色にそまった輝く目で
         大きく窓を開け放つ


   * 挿一輪 *

 寒くなってくると、
 外との温度差で窓が結露します。
 
 じっと見ているとなにかを書きたくなります。
 子どもたちなら、さっそくお絵描きをはじめます。
 
 結露のぬぐわれた線の跡には、
 外側の色が切り絵のように抜けています。
 雨の日には雨の色に、
 花があれば花の色に染まります。
 
 こころにも窓があります。
 いつもクリーンならいいのですが、
 外との温度差で結露することがありませんか。
 
 外が見たくなって自分の形で文字を書くと、
 どんよりとした世界しか見ることができません。
 
 でもアングルを変えてみると、
 思いもかけなかった色が覗いていることがあります。
 
 ベランダのしおれた花しか見えなかったのは、
 そこにしか視線がむかなかったから。
 
 ふとしゃがみこんで、視線を上げると。
 あなたの文字の色は同じままですか。
 
 え、この色はどこから。
 
 おもいっきり結露をぬぐって、
 窓を大きく開いてみてください。
 ほら、みごとな秋の空の青色です。
 
 あなたの窓に書いた文字は、
 いまどんな色に見えますか?



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