2008年1月のこびん

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<第0389号 2008年1月27日(日)>

       吹雪

         まっしろな
         こおりの
         サンドペーパーで
         
         なんども
         なんども
         あきることなく
         
         分別をなくした
         かなしみたちを
         
         途方にくれた
         まよいごたちを
         
         屋根も
         花も
         君のことばさえも
         
         ひとつ残らず
         こすり続けて
         こすり落として
         
         雪は
         変えてゆく
         
         生まれたばかりの
         まっさらなカンバスに


   * 挿一輪 *

 まるでモノクロの写真のように、
 色彩を隠してしまう雪。
 
 毎日のように生まれる、
 こころのくすみまでも隠してくれるのでしょうか。
 
 日常の小さなできことが、
 ひとつひとつストレスになってゆくと、
 こころのカンバスも曇ってゆきます。
 
 ほんとうは、
 なんでも柔軟に受け入れるはずのものが、
 かたくなな思いに妨げられてゆきます。
 
 雪を見て、
 ふと子どもの頃のような目に戻るのは、
 あの頃の汚れのないこころのカンバスを、
 思い出すからかもしれません。
 
 真白に降り積もった雪も、
 そのうちに溶けてゆきます。
 真白なカンバスも、
 またもとの色彩の世界に戻ってゆきます。
 
 けれど、
 時々こうして、
 真白の世界をかいまみることで、
 小さな気持ちの切り替えや、
 子どものころのこころにもどるからこそ、
 この世界が、
 よりまぶしく見えるのではないでしょうか。


<第0388号 2008年1月20日(日)>

       ささやかな理由

         生きる
         
         目のまえの
         一瞬で通りすぎる
         あなたに出会うために
         
         道にゆれる
         木の葉の影
         
         自販機横の
         顔に見える空き缶入れ
         
         フェンスに残る
         アサガオの黒い種
         
         カートを押す老人の
         深いしわの笑顔
         
         ひなたに寝そべる
         宿無しの黒猫
         
         さび落ちた
         看板の文字の色
         
         溶けかかった霜柱
         ほこりまみれのタンポポ
         ミラーにすべる朝陽
         
         おもわずみあげた
         空 そら ソラ
         
         生きる
         
         一瞬のこの世界を
         ひとつでも多く
         見ていたいために
         
         生きる
         
         たったそれだけの
         ささやかな
         わたしだけの理由のために


   * 挿一輪 *

 日常に理由をつけることはできます。
 
 食べなければ生きていけないから。
 生活を安定したいから。
 家族を守らなければならないから。
 
 夢をもって、
 目標をもって、
 毎日を生きてゆかなければならないから。
 
 でも、
 それは日常が思惑通りに、
 静かに確実に動いているからこそ。
 
 ひとつのアクシデントが、
 ひとつの行き違いが、
 明日への入口さえ見失わさせてしまいます。
 
 それでも、
 わたしたちは生きています。
 ひとりひとりのわたしは生きてゆきます。
 
 どうしてでしょうか?
 それぞれに理由があるからです。
 わたしが生きている理由があるからです。
 
 だれかを守るためとか、
 なにかを作るためとか、
 はっきりとした理由でなくてもかまいません。
 
 たとえば。
 
 生きているわたしをたしかめるために、
 目の前の世界を、
 ひとつでも多くしっかりと見て、
 わたしのなかに残す。
 
 それだけでも立派な理由です。
 
 写真を撮ってアルバムに残す。
 ノートに思いついたことばを書きとめる。
 
 おなじような感覚で、
 わたしの見たものを、
 生きている証としてこころに残してゆく。
 
 そんなささやかな理由のために、
 生きているのもいいと思うのですが。
 
 あなたの生きている理由は何ですか?


<第0387号 2008年1月13日(日)>

       わすれもの

         ビニールの袋に
         青いハンカチ
         「わすれもの」
         子どもの文字で
         
         呼び止められた
         石のオブジェは
         一休みにちょうどいいイス
         
         腰かけた誰もが
         ふと顔を上げると
         めのまえに
         真っ青な空
         ひろがる
         
         ほかに
         なんにもないのだけれど
         どうしてみんな
         ふるさとに帰ったときの
         やさしい顔になるのだろう
         
         ビニール袋に
         陽がさしこんで
         「わすれもの」
         文字が光に溶けてゆく
         
         見つかったんだね
         忘れたものが
         気がついたんだね
         忘れていたことに
         
         石のオブジェの題名は
         「わたしの空」
         子どものころと
         これっぽっちも変わらない


   * 挿一輪 *

 忘れたことがたくさんあります。
 
 あまりに忘れてしまったので、
 忘れたことすら覚えていません。
 
 でもなくしてしまったわけではなく、
 しまった場所を忘れただけです。
 
 なぜなら、
 突然思い出すことがあるからです。
 
 そういえばこれはどこかで見たことが、
 というゆっくりとした「わすれもの」から、
 再開した瞬間に、
 ことばもなくその場所にワープする「わすれもの」まで。
 
 千差万別のわすれものは、
 たいていは、
 子どものころのまっすぐな気持ちなのかもしれません。
 
 たとえば、空。
 たとえば、海。
 
 ただじっと見ているだけで、
 ただ風の音に耳を澄ませているだけで、
 からだの壁をすっかり溶かし、
 時間の記憶の壁を飛び越えて
 広い空間がひろがってゆきます。
 
 ほら、
 ふるさとに帰ったような、
 なつかしくやさしい気持ち。
 
 あなたの「わすれもの」
 しっかりと受けとりましたか?


<第0386号 2008年1月6日(日)>

       いのちの図形

         川と青空のあいだ
         いっぽんの土手
         まっすぐ緑の
         音符たちの
         綱わたり
         じっと
         見て
         線
         
         散歩のおじさん
         犬と子どもたち
         赤ちゃんとママ
         ゆったり自転車
         
         新しい年の夢風
         凧からの年賀状
         たんぽぽの笑み
         
         ハックションと
         どこかで聞える
         大きなくしゃみ
         
         キラキラキラと
         かけてゆくほら
         光のおにごっこ
         
         土手の上の青空
         そのまま上ると
         どこまでゆくか
         知っているかい
         
         ね
         ほら
         みんな
         宇宙から
         やってきた
         ひとつ残らず
         かけがえのない
         いのちたちなのさ


   * 挿一輪 *

 川原に座って土手を見上げると、
 とても気持ちがいいです。
 
 雲ひとつない青空に、
 吸い込まれるように、
 土手の上をみんなが通ります。
 
 一本の線を、
 いろいろな形の図形が現れ、
 通り過ぎてゆきます。
 
 ゆったりと時が流れ、
 風が吹き、
 光の反映が遊びまわります。
 
 空を見上げていると、
 この星も、
 宇宙に浮ぶ小さな星だなと気がつきます。
 
 そのなかの、
 わたしはひとつのいのち。
 あなたもひとつのいのち。
 
 姿かたちは変わっても、
 生きていることは同じです。
 土手の上の一本の線の上の、
 通り過ぎる図形です。
 
 でも、
 同じいのちはひとつとしてありません。
 代われるいのちはひとつとしてありません。
 
 大切に、
 ていねいに、
 いつまでも、
 そのいのちを、
 育んでいきたいですね。




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