2009年3月のこびん

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<第0450号 2009年3月29日(日)>

       あなたに 13

         どうしても
         ほしいものがあったなら
         じっと
         思い浮かべてみるがいい
         
         この世に
         たったひとつのものでも
         そばにさえ
         近づけないものでも
         
         じっと想い
         両手のてのひらで
         つつみこむように
         
         じっと見つめ
         こころのなかに
         おくりこむように


   * 挿一輪 *

 いまあなたがどうしてもほしいものは何ですか。
 
 すぐにでも手に入れたいもの、
 一生かかってもいいからいつか巡りあいたいもの、
 ただ遠くからでも見ることさえできればいいもの。
 
 ネットショップや近くの店で手に入れられるものから、
 ある程度お金をためれば買えるもの、
 中古でしか見つけられない絶版のもの、
 そしてお金では買うことのできないもの。
 
 ほしいものが昨日、今日、明日と次々と変わってゆく人、
 たったひとつのものを一生かけて捜し求める人、
 それぞれの人にそれぞれの想いがあることと思います。
 
 ほしいと思い続けているあいだが楽しくて、
 手に入れてしまうと急に興味がなくなってしまう、
 その求めている時間が至福のときという人もいるかもしれません。
 
 でも、やっとほしいものを手に入れて、
 一緒にそのものと過ごす時間が、
 いちばんしあわせを感じるときに違いありません。
 
 はじめは単に「ほしいもの」を追い求めることが、
 いつのまにかあなた自身の糧になる、そんな出会いがしたいですね。


<第0449号 2009年3月22日(日)>

       あなたに 12

         大切なものは
         呼吸をするようにからだに入る
         大切なものは
         手足とこころがすっと動く
         
         だれかを
         好きになることでも
         なにかと
         巡りあえることでも
         
         時間が消えるように
         すっと
         すいこまれる
         
         淡雪が溶けるように
         さっと
         境界がなくなる


   * 挿一輪 *

 春の雪はほんとうに儚(はかな)いものです。
 さしだしたてのひらですぐに溶けてゆきます。
 その溶け方で春の近いことを教えてくれているのかもしれません。
 
 春の雪がすっと溶けるように、
 なにかが体のなかにすっと入ることがあります。
 
 どうしても覚えなければならない学校の勉強のように、
 なかなか入ってゆかない知識とは違って、
 まるで包み込み溶けるように体のなかに入りこむもの、
 境界がなくなった、こころのタイムマシンようなものでしょうか。
 
 考えてみると、
 多くは自分の好きなもの、心地よいものなのでしょうが、
 生きてゆくそれぞれの場面でとても大切な分岐点には、
 そんな溶けるような巡りあいがあるように思います。
 
 自然界との対話のなかでは、
 多くの場合、境界を作っているのは自分の側ですから、
 こころを開いてゆけば寄り添うように入るのかもしれません。
 
 現代社会のようにお互いの距離がつまって警戒することが多いと、
 堅い障壁が安全策のひとつに思われがちですが、
 ふっと受け入れることで、
 新しい世界の扉を開けるきっかけになるのかもしれませんね。


<第0448号 2009年3月15日(日)>

       あなたに 11

         雨上がりの朝は
         歩いてみるといい
         人のまばらな表通りを
         あてもなく歩いてみるといい
         
         雨上がりの朝は
         ふたつの宇宙の扉を
         大掃除のときのように
         あけっぱなしにするといい
         
         どこまでも広がる
         青い青い空と
         音もなく輝く太陽と
         
         どこまでも広がる
         深い深いこころと
         体を揺らしながら輝く心臓と


   * 挿一輪 *

 雨上がりの朝はとてもさわやかな気持ちになります。
 雨は好きではない、という人が多いと思いますが、
 この雨上がりの朝のみずみずしさのために、
 雨は必要不可欠なものといっては言いすぎでしょうか。
 
 たまっていた埃や、もやもやとしていた引っかかりを洗い流して、
 まっすぐに太陽の光が飛んでくるのを、
 まるで深呼吸するように染みとおらせて、
 ほら、生き返ったような新鮮さを感じます。
 
 いつのまにかできていた目に見えない障壁を、
 部屋中の扉や窓を開け放って大掃除をするように、
 きれいに取り払ってしまいます。
 
 こうしてみると、
 こんなにも広くて大きな空があったのかと驚きますし、
 ふと自分の内面をのぞいたときに、
 おなじくらい大きくて深いこころがあるのに気がつきます。
 
 ひとつひとつのいのちが、
 からだ一枚の皮でいつでも宇宙に接しているという事実、
 あらためて意識してみると、すごいことだなと思いませんか。
 
 雨上がりの朝は、
 もう一度そのことを教えてくれる、ステキな朝なのかもしれませんね。


<第0447号 2009年3月8日(日)>

       あなたに 10

         空を見ていると
         星が流れることがある
         あなたは見たことが
         あるのだろうか
         
         たとえこの空で出会っても
         太陽の輝く
         昼間の空では
         見ることはかなわない
         
         不思議だね
         こうしているあいだも
         数え切れない星たちが
         
         不思議だね
         だれにも見られずに
         流れてゆく事実


   * 挿一輪 *

 流れ星を見たことがありますか。
 
 現在では流星群の情報がニュースやインターネットでわかり、
 待ちかまえて流れ星を見ることができます。
 
 そんな便利なものがなかった時代は、
 夜空を見上げていると、
 「あ、流れ星」という偶然の出会いだったのでしょう。
 
 だからこそ、星が流れているあいだに、
 願いをつぶやくと、その願いがかなえられるという、
 ステキな伝承も生まれたのだと思います。
 
 流れ星を見られるのは、宇宙にでも出ない限り、
 空の暗い夜しかありません。
 白日のもとではたとえ流星群でも見ることはできません。
 
 当たり前のことかもしれませんが、
 考えてみれば私たちが見ることのできるものは、
 限られた条件の下での巡りあいだけです。
 
 逆にいうと、見ること、そこにいること、出会うこと、
 それはとても不思議で貴重な体験になっているということです。
 流れ星に出会うのと同じように、
 さまざまな出会いを大切にしてゆきたいですね。


<第0446号 2009年3月1日(日)>

       あなたに 9

         忘れないことは
         忘れることよりむずかしい
         どんなにぴたりと指を閉じても
         いつかなくなるてのひらの水
         
         忘れることは
         忘れないよりむずかしい
         どんなにぴたりと目を閉じても
         くりかえされる画像
         
         むずかしいことは
         どうにかして
         やりとげようとするかい
         
         むずかしいことは
         一緒にひざを抱えて
         ならんで座ってみるかい


   * 挿一輪 *

 むずかしいことというのは、
 考えてみると不思議なことです。
 
 結果に向かってベストをつくすのは必要ですが、
 必ずしも理想どおりの形を得ることができません。
 完璧をめざすあまり、
 自分の生き様を失ってしまうことは辛いことです。
 
 実際に思い通りに目標を達成しようとすると、
 とてもむずかしくてできないのですが、
 近づければいいや、という気持ちでいると、
 意外に到達できてしまうこともあります。
 
 忘れることも、忘れないことも、
 その場に限っていえば、むずかしいこともありますが、
 人間が生きるためには、どちらの体験も必要です。
 
 バランスは左右が対等ということではありません。
 行ったり来たり、大きく小さく揺れながら、
 いちばん大切な要(かなめ)を通過してゆく、やじろべえです。
 
 考えてみれば、日常はそんなバランスの連続です。
 いっそむずかしいことの傍らにじっとたたずみながら、
 気難しげな横顔をみつめることも、
 新しい解決策への、ひとつの道筋かもしれませんね。



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