2009年8月のこびん

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<第0472号 2009年8月30日(日)>

       あなたに 35

         月が隠れている夜に
         あなたは空を見上げる
         今夜に限って
         じっと月を見てみたい
         
         曇り空ではないのに
         月は出ていない
         そう明日から
         新月がはじまる
         
         からだのなかにも
         月は昇る
         ゆっくりと音もなく
         
         黒猫の瞳を
         ふくらますように
         あなたの新月が


   * 挿一輪 *

 秋が近づいてくると月に親しみが湧いてきます。
 
 気にして空を見上げたり、暦を見てみるよりも、
 ふと見上げた空に月が出ている、
 そのほうが新鮮な再会の喜びがあるように思います。
 
 月は潮の満ち引きにも影響がありますし、
 生物の体にも忘れていた何かを思い出すような、
 深いかかわりを太古の昔からもっていたようです。
 
 それにしてもいつもは思い出さない月の姿を、
 何となく夜空に捜してみたくなるのは、
 どこからか秋の風が忍び寄ってきたからでしょうか。
 
 そこに眉のような三日月が出ていたり、
 満面の笑みをたたえた満月近くの月が出ていればいいのでしょうが、
 あいにく新月で出会えなかったときは残念な気持ちになります。
 
 どの季節でも季節なりに月は似合うのですが、
 夏の終わりから秋にかけての月の変化はいとおしいものがあります。
 新月から上限の月に、満月を経て下弦の月に。
 
 その初めにあたってのこころの変化は、
 ひとつひとつに繊細な想いを感じさせてくれます。
 ほんとうに日本人に生まれてよかったなと思う瞬間ですね。


<第0471号 2009年8月23日(日)>

       あなたに 34

         てのひらを
         空に向けて
         天からの恵みを受ける
         雨の雫のように
         
         てのひらを
         大地に当てて
         地球からの力を受ける
         母の胎動のように
         
         あなたからうまれる
         恒星のように
         力強く輝くもの
         
         あなたのはぐくむ
         いのちの尊さを
         たしかに受けとめるもの


   * 挿一輪 *

 力強く生きている雑草も、ひとりで生きているのではありません。
 空からの太陽の恵みと水の恵み、
 そして、しっかりと根付く大地の恵みが支えています。
 
 もう何世紀にわたって生き続けている大樹も、
 はじめは小さくやわらかな芽から伸びてきました。
 樹や草だけではなく、生き物たちは多くの力を糧に成長してきました。
 
 私たちも例外ではありません。
 いえ、植物や動物のいのちを得ていることで、
 よりいっそうの数限りない力をもらって生きています。
 
 いのちのいちばん尊いところは、たったひとつのいのちが、
 自分だけでなく、他のいのちの役に立つところです。
 そのうえ、得られた力をただそのまま使うだけではなく、
 より大きな力に変えてゆく能力もはぐくまれてきました。
 
 でもいまの人間の生き方を見ていると、
 その力をあまり正しい方向に使っていない例が多いようです。
 
 いのちは他のいのちを育むためにも生きています。
 
 その一点をいつもこころの片隅において、
 たったひとつしかない自分のいのちを、
 他のいのちのためにも大切に生きてゆきたいですね。


<第0470号 2009年8月16日(日)>

       あなたに 33

         うたをつくれ
         あなた自身のうたを
         うたをつくれ
         あなたへのうたを
         
         うたをつくれ
         うたいつづけるうたを
         うたをつくれ
         あなたからのうたを
         
         うたはあなたの空洞を
         飛び交い
         ついにはいっぱいに満ち
         
         うたはあなたの殻を
         破り
         ついには大気にはじけ


   * 挿一輪 *

 生きていることは自分のうたをうたいあげることです。
 この世の中でのたったひとつのうた。
 おなじものはふたつとしてありません。
 
 生まれたときにつくりはじめたうたは、
 生きてゆくにつれてさまざまに変化してゆきます。
 あるときに、これで完成だと思っても、
 しばらくしてからふりかえると、
 まだまだうたい足りないところが見えてきます。
 
 楽しいことがひとつあり、悲しいことがひとつあり、
 だれかに守られることがあり、なにかを見つけることがあり、
 そのつど、うたはつくりなおされ変化し続けてゆきます。
 
 小さなうたは毎日のようにできることでしょう。
 ことばや絵や音にしなくても、
 こころのなかでうまれては蓄積されてゆきます。
 
 どんな形として残すかはその人の自由ですし、
 こころのなかに書きとめたままでも、
 広く外に伝えることもその人の思いひとつです。
 
 でも、いのちひとつひとつの生き方が記憶されるというのなら、
 それぞれのうたが必ずどこかに流れてゆきます。
 いま、あなたのこころにはどんなうたが流れているのでしょうか。


<第0469号 2009年8月9日(日)>

       あなたに 32

         ふとなにかに
         声をかけられた気がしたら
         立ち止まって
         みまわしてごらん
         
         あなたのこころが
         なにかをみつけて
         すこしのあいだ
         話がしたくなったのだから
         
         いそがしいふりをして
         いつも行きすぎると
         声はなくなってしまう
         
         それだけのことだけど
         大切ななくしものにも
         もう気がつかない


   * 挿一輪 *

 ふと立ち止まることはありませんか。
 
 声をかけられたような気がしましたか?
 なにか視界の端を通り過ぎましたか?
 なつかしい匂いがしましたか?
 
 もっとぼんやりしたもの、
 不思議な感じがしたとか、
 理由もわからず気分が変わったとか、でもかまいません。
 
 いつもと違った感覚のときは、
 あなたをなにかが呼び止めているのかもしれません。
 あなたの中のなにかが話しかけているのかもしれません。
 
 ほんの小さなサインです。
 2、3秒息を止めていれば通り過ぎてしまう時間です。
 気のせい?となにごともなかったかのように歩きはじめれば、
 もう次の瞬間には忘れてしまうささやかなことです。
 
 でもそこで立ち止まって、小さな声に耳をかたむければ、
 きっと大切なメッセージが得られるはずです。
 気をつければ次々と発しているのが分かるはずです。
 
 けれど無視し続ければ声は聞こえなくなります。
 大切なものを知る機会を、しっかりととらえてゆきたいですね。


<第0468号 2009年8月2日(日)>

       あなたに 31

         せり出している
         白いだいこん
         黒い土のフトンから
         ぐうぃんと空へ
         
         暑くて飛び出した
         おさなごの
         光を生み出す
         未来への足のように
         
         大地はどこもが地平線
         しっかりと踏みしめて
         そのまま前をむいて
         
         太陽の光におされて
         風の笑いにさそわれて
         さあ歩き出そう


   * 挿一輪 *

 だいこんに例えられるものといえば、足。
 しっかりと大地を踏みしめるような立派な足がいいのか、
 それとも細く伸びたしなやかな足がいいのか、悩みます。
 
 子どもが小さい時に、何度かけても、はだけてしまう布団。
 そこから飛び出した白く細い足は、
 明日を感じさせるまぶしい光を放っていたものでした。
 
 そのことばを聞くだけで、だれもが不思議に憧れる地平線。
 虹のふもとと同じように、また彼方の水平線のように、
 いつまでたってもたどりつけないノスタルジーを感じます。
 
 でももしかしたら、あなたの立っているその位置。
 遥か彼方からだれかが見たのならば、
 あなたは地平線の位置に立って見えるかもしれません。
 
 どこにいようともあなたがしっかりと踏みしめている大地。
 その足で歩き出すことは、
 生きるための条件のひとつを手にしたのとおなじことです。
 
 歩き出すきっかけがほしいというあなた。
 背中がなんとなくむずむずしてきませんか。
 髪がふわふわと自然になびいてはきませんか。
 この世界のすべてがあなたを待っています、仲間になることを。
 さあ、ささやかな理由を手にしたら、一歩踏み出してみませんか。



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