2010年2月のこびん

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<第0498号 2010年2月28日(日)>

       じんちょうげ

         しもやけで
         まっかになったゆび
         
         たいようのかあさんが
         やわらかにあたためて
         
         いっせいにひらいた
         じゅんぱくのえがお
         
         かおりたつ
         はるのこどもたち


   * 挿一輪 *

 路地を歩いていたらふと懐かしい匂いに足が止まりました。
 まわりをみまわしてみると咲いていました、じんちょうげの花です。
 毎年この匂いに再会すると、ああ春が来たのだと思います。
 
 まだ2、3輪しか開いていないのですが、
 開いたばかりのじんちょうげは、ことさら匂いが強く思われます。
 
 近寄りがたい芋虫が、美しい蝶になるのが信じられないように、
 異形のものから、はっとするものが生まれてくることは多々あります。
 しもやけの真っ赤な指のようなつぼみから、
 想像もつかない純白の花が咲くのは、ほんとうに不思議です。
 
 自然界の息をのむ驚きは、絶景奇景の世界遺産だけではありません。
 よく観察していれば日常の景色のなかにも散りばめられています。
 近所での散歩の途中でも注意すれば見つけることは可能です。
 いえ、ぼーっと歩いていても、じんちょうげの匂いのように、
 むこうからしっかりと教えてくれるものもあります。
 
 春先は特に変化が目につきやすい季節です。
 ぜひ近くで日常の小さな奇跡を見つけてくださいね。


<第0497号 2010年2月21日(日)>

       かえる

         やわらかなゆきは
         たいようのぬくもりで
         そらのふるさとに
         かえってゆく,
         
         やわらかなえがおは
         もうひとつのえがおと
         こころのふるさとに
         かえってゆく


   * 挿一輪 *

 音もなく降り積もった雪は、
 太陽の熱で水蒸気になって空に帰ってゆきます。
 雪にとっては空がふるさとなのでしょう。
 
 日ごろ出会う人たちの笑顔も、
 時によってふるさとのようなぬくもりを感じさせられます。
 笑顔は笑顔を呼びます。
 楽しそうなやりとりを見ているとそれを見たひとまでも笑顔になります。
 
 雪のふるさとが空なのであれば、
 笑顔のふるさとはこころのなかにあると思います。
 笑顔がとっても心地よいのは、
 まるでふるさとに戻ったようにほっとするからかもしれません。
 
 太陽のぬくもりが、厳しい寒さのなかでのひなたぼっこならば、
 ひとりの笑顔は、厳しい社会のなかでのひなたぼっこになります。
 
 毎日ひとつずつでも笑顔をふやしてみませんか。
 ひとつの笑顔がもうひとつの笑顔を呼び、
 もうひとつの笑顔はきっとたくさんの仲間をつくるはずですから。


<第0496号 2010年2月14日(日)>

       まどがらす

         ゆびさきで
         もじをかく
         まどのがらすに
         もじをかく
         びさいなすいてきを
         かきわけるように
         もじをかく
         
         たいせつなひとの
         なまえと
         たいせつにつたえたい
         ことばと
         おもいがあつまって
         おもさにたえかねて
         ながれおちるまえに
         いっきにかく


   * 挿一輪 *

 冬の室内と外の温度差は窓ガラスの結露を生みます。
 微細な水滴がガラス一面にびっしりとついて、
 そこになにか線や絵を描いてみたくなります。
 
 子供のころにはいろいろな線や絵を窓一面に描いたものです。
 描いてしばらくするとそこに水滴がたまって、
 重みに耐えかね、つーっと大きな水滴が下りて崩れてゆきます。
 
 思春期になるとそこに好きな人の名前を書いたり、
 男の子と女の子との相合傘を書いたりしたことも楽しいいたずらです。
 落書きとして残るのは恥ずかしいのですが、
 ガラスの上の文字はやがて流れて消える、自由なカンヴァスでした。
 
 失敗したりやるせなくなって思わず手のひらで一拭き、
 文字も線も元の濡れた窓ガラスに戻ります。
 その分の想いはこころのなかに水滴のように流れこんで、
 いつまでも甘酸っぱい思い出として残っています。
 
 大人になっても結露した窓ガラスになにかを描くことはありませんか。
 あのころの素直な自分に戻って、大切ななにかを伝えてみませんか。


<第0495号 2010年2月7日(日)>

       はじまり

         はるのはじまり
         ほしいもの
         えがお
         ひとつ
         
         とおりがかりの
         だれかのまぶしさ
         いえのまども
         かべのもようも
         たんぽぽだって
         えがお
         
         だれかにあったなら
         はなしたのなら
         さっとわたして
         おかえしにもらって
         ふえてゆく
         えがお
         
         あなたのなかに
         つみかさねて
         こんなに
         えがお
         はるのはじまり


   * 挿一輪 *

 あなたは、いまなにがいちばんほしいですか?
 
 寒い日がつづくので暖かいダウンがほしいな、とか、
 からだがあたたまるおいしいものがほしいな、とか、
 ゆっくりと温泉につかりたいな、とか。
 
 受験生は希望の学校に入れるといいな、とか、
 厳しい社会のなか、良い仕事がみつかればいいな、とか、
 気になるあの人と付き合えたらいいな、とか。
 
 切実な望みから、ほんわりとした夢まで、
 毎日の生活をおくりながらも、抱いているささやかな望み。
 
 冬の寒さは厳しいけれど、春はもうそこまで来ています。
 気がつかないほど小さな春がひとつひとつ生まれてゆきます。
 負けないようにこころのなかにも春を積み重ねたいですね。
 
 つくしやひなたのぬくもりと同じこころの春はなんでしょうか。
 きっとにこにことあたたかな太陽のような笑顔でしょうね。
 毎日ひとつずつでもえがおをもらって、大きな春をむかえてください。



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