2010年11月のこびん

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<第0537号 2010年11月28日(日)>

       建設予告

         整地された
         空き地に
         まぶしい
         建設予告
         
         古びた
         一軒家に
         うつむいた
         建設予告
         
         風は
         高い空から降りてきて
         桜の赤い葉を
         また
         一枚積み重ね


   * 挿一輪 *

 久しぶりに訪ねた場所は、以前と比べてどこか違っていました。
 見慣れた風景なのに、見慣れぬ場所に来たような気持ちがします。
 
 いつもなら何気なく見過ごしてきた建物がなくなっている、
 不思議ですね、たった一軒の家が空き地になっただけで、
 その周りが異郷の地のように感じてしまいます。
 
 今は日当たりの良い空き地に、建設予告の白い看板が立っています。
 きれいに整地された場所に新しい家が建つ気配が感じられます。
 
 でも、少し離れた場所にある同じような建設予告の白い看板は、
 まだ残っている古い建物の陰に、寄り添うように立てられていました。
 こちらも建設予告なのに、建物のせいかずいぶん寂しそうです。
 
 同じ看板を置いてみても、背景によって感じ方が変わってきます。
 よく学校の美術の教科書にのっていましたね、
 背景によって色の見え方や大きさが違ってくる例の写真が。
 
 日常の様々な場面も、見る人、見る位置、気分によって、
 その都度変わってきます。
 
 どれが良いとか悪いとかではなく、
 見え方の違いを観察するのもおもしろいと思います。
 小さな違いに眼を留めてみてくださいね。


<第0536号 2010年11月21日(日)>

       ボタン穴

         ボタン穴に
         ボタンを
         はめずに
         じっと考えてみる
         
         ボタン穴に
         小さな花を挿してみようか
         
         ボタン穴に
         ガラス玉をはめてみようか
         
         ボタン穴に
         日差しをあててみようか
         
         ボタン穴に
         短いことばを埋めてみようか
         
         ボタン穴に
         ぼたんを
         はめずに
         じっと見つめている


   * 挿一輪 *

 ボタン穴は、ボタンをはめるために開いています。
 ボタン穴は、出来たときからそう思われています。
 
 もっとも、作ったのが人間ですから、人間の考えに過ぎませんが。
 その人間ですら、ある日ふと考えます。
 ボタン穴にボタンをはめなかったなら何に使おうか。
 
 その組み合わせでペアが成立しているものを、
 相方を変えてみたらどうなるのでしょうか。
 
 身の回りにあるものをもう一度、別の組み合わせを試してみるのも、
 新しい発見につながる一歩かもしれません。
 パズルのつもりで、楽しみながらやってみてはいかがでしょうか。


<第0535号 2010年11月14日(日)>

       ミラー

         地上に泳ぐ魚の
         眼
         
         小さな路地の
         カーブミラー
         
         映ったドアが
         突然開いて
         
         足音立てて
         出て行ったから
         
         がらんと空いた
         魚の眼に
         
         こんどは
         わたしが入ってみよう
         
         白い雲の踏み段を
         頭上の海の湾から
         借りて


   * 挿一輪 *

 気がつくとどこにでもあるカーブミラーなのですが、
 車の運転をしていないときはあまり気にもかけません。
 
 ふと立ち止まって覗き込んでみると、
 魚眼レンズを通してみたような楽しい世界が映ります。
 
 まるで路地が海のなかになり、自分が魚になったようで、
 不思議な気持ちになってきます。
 
 いつも見ている正面からの世界と、
 何かに映して別の角度やフィルターを通してみる世界。
 
 まったく同じものなのに、別の世界が体験できます。
 わたしたちひとりひとりの心に映る世界も、
 きっとそれぞれの世界のように、異なって見えることもあるでしょう。
 
 個性という名の世界、尊重して大切にしたいですね。


<第0534号 2010年11月7日(日)>

       飛行機雲

         どうしても
         飛行機雲が
         この青空の
         まんなかに
         欲しいのなら
         
         わたしが
         空高く駆け抜けてあげる
         
         でも
         ほんとうは
         飛行機雲が見たいのではなく
         飛行機雲が作りたいのなら
         
         あなたが
         空高く駆け抜けなければ
         だめ
         
         ほら行ってごらん
         だいじょうぶ
         わたしだって
         できたのだから


   * 挿一輪 *

 見上げると気持ちの良い秋の青空が、
 いっぱいに広がっています。
 
 白い雲が少し浮いているのをぼんやりと見ていると、
 ほら飛行機雲が一本まっすぐに伸びてゆきます。
 
 先頭には銀色に輝く機体が駈けてゆきます。
 できたての飛行機雲をじっと空の端まで見続けていました。
 
 飛行機がなければ、飛行機雲は始まりません。
 どんなに青い空の一本の白い軌跡にあこがれていても、
 見ているだけでは、そこに軌跡を引くことはできません。
 
 必要なのは青い空をかけぬけることです。
 飛行機雲はだれかが駆け抜けた後の結果です。
 
 青い空以外にもあこがれる空はたくさんあります。
 そこにあなたが、かけぬけることで軌跡が生まれます。
 
 まっすぐな、くっきりとした、だれかが見つけて、
 「あ、飛行機雲」と呼ぶような気持ちの良い軌跡。
 
 まず、あなたの空を見つけて、
 あとは、そう、
 おもいっきり駆け抜けてください。
 あなたの飛行機雲を、どこかで見上げるのはいつでしょうか。



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