2011年3月のこびん

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<第0554号 2011年3月27日(日)>

       いのちの空間

         せつな
         これっぽっちの空間が
         自分だけの
         うつわの空間が
         
         たてにもよこにも
         空にも大地にも
         過去にも未来にも
         あなたにも
         その隣のあなたにも
         離れたあなたにも
         見ることもないいのちにも
         どんどんどんどん
         広がってゆく
         たどってゆける
         かぎりのない
         不思議
         
         これが
         いのち本来の
         大きさ


   * 挿一輪 *

 自分の命の入っている器(うつわ)、自分の大きさには限りがあります。
 数値で表せば身長○○cm、体重○○kgの大きさのなかに、
 すっかり収まっている空間なのですが、
 実はそれだけではありません。
 
 空を見上げて雄大な広さを感じるときの自分は、
 体の大きさを通り越して空いっぱいに広がります。
 
 過去や未来を思えば、時間を越えて広がることで、
 自分ひとりだけでも大きさは広がります。
 
 目の前にいる人や小さな生き物たちに話しかけても、
 いえ、一緒にそばにいて寄り添っているだけでも、
 お互いの空間を共有してどんどん広がってゆきます。
 
 小さないのちの器の大きさ。
 でも実は、見た目の大きさだけではなく、
 無限に広がる大きな空間なのです。
 
 だからこそ、どんなに小さないのちでも、
 はかりしれない可能性を秘めているのです。
 
 自分のまわりに広がっている空間に、
 自由に使える翼を使って、
 あなた自身のいのちを、どこまでも広げていってくださいね。


<第0553号 2011年3月20日(日)>

       刹那

         そのままのひとつ
         もって
         生きてゆくことの
         はかなさ
         
         そのままのひとつ
         もって
         生きてゆくことの
         かなしさ
         
         そのままのひとつ
         もって
         生きてゆくことの
         おもさ
         
         いのちの
         いのちたちの
         せつな


   * 挿一輪 *

 一瞬一瞬の刹那(せつな)の積み重ねでいのちは続いています。
 ひとつとして途切れることのなく続いていることを、
 けだし、いのち自身は意識していません。
 
 静かなようで、目にもとまらない速さでいのちは生きています。
 どんなときでも、最後のそのときまで最大限の努力をして。
 
 だから、生きてください。
 自身のいのちをしっかりと生きてください。
 それが、もう生きられなくなってしまったいのちたちへの、
 唯一の鎮魂歌なのですから。
 
 冷たい厳しい冬は、春への準備です。
 かならず、春は来ます。
 かならず、春は来ます。
 数え切れない涙の数で、春はいのちを育んでくれます


<第0552号 2011年3月13日(日)>

       待ち人来る

         春の待ち人
         ひめじょうおんの花の
         あせびの白い鈴の
         じんちょうげのにほいの
         足音を吸い込む土の
         まっすぐな目
         
         からだのなかに
         からっぽのふくろを抱き
         だからこそ
         それぞれのそのからだゆえの
         まっすぐな音
         
         力強くかそけく
         うたうようにつぶやくように
         抱きしめるように
         しゃくりあげるように
         まっすぐないのち
         
         ほこらずして
         なにを生きるのだろうか
         陽だまりをめくりあげて
         なぜに陰をさがすのか
         
         ひたすらなひたすらなひたすらな
         すっくと立ちつくす
         そのままのひとつ


   * 挿一輪 *

 凍りついた大地から緑の一帖の春の手紙。
 じっと見つめて、そっと触れて、思わず笑んで。
 
 ただこのときのために、ずっと前から準備されての成果。
 このときにまみえた人の何倍もの喜びをもって、
 春の芽はこの空の下に顔を出したに違いありません。
 
 まっすぐに伸びてください。
 一見危うそうに見えて、その下には大地とつながる根があります。
 あなたと共に、見えないたくさんの芽も伸びてゆきます。
 
 さあそれぞれの今日のためにひたすらに伸びましょう。
 満ち足りたときにまた新しい今日が待っているはずでしょうから。


<第0551号 2011年3月6日(日)>

       再会

         透明な はぶたえ
         一枚だけ羽織って
         さがしにゆく
         待ち人を
         
         つつましやかな
         赤い芽を
         小さな匂い玉に包んで
         眠ったふりをしている
         待ち人を
         
         新しい月が
         みぞれまじりのことばで
         はじまろうとしても
         待ち人は耳を澄ます
         
         凍った風のなかで
         足音が近寄る
         そっとかがむ
         その細い指をゆだねる
         声にならない波を
         包むように送る
         
         懐かしいしぐさ
         一年ぶりに思い出して
         はぶたえを溶かす
         春の待ち人


   * 挿一輪 *

 一年ぶりに巡る春。
 
 当たり前のように思えて、また新しい春に会えたことに感謝します。
 
 自分は確実にこの一年生きてきて、またひとつ年を積み重ねて、
 それに比べていつでも生まれたばかりのみずみずしい春の世界。
 
 不思議ですね。
 なんにもないような土のなかから、まるで念じたように緑たちが。
 でも、そこにはたくさんの準備された種があったに違いありません。
 
 小さな無数の春の待ち人たちは、
 だれかに会いたくてうずうずしているかもしれません。
 はにかみやの彼らを見つけるのはあなたの気づき次第です。
 
 何にもないように見えて、無数のものを含んでいるこの世界。
 何にもないんだ、とあきらめる前に、
 ただ見ていないだけなんだと、探してみてください。
 
 たったひとつも例外などありません。
 あなた自身にだって、
 春の大地のように待ち人が無数にいるのですから。




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