<第0592号 2011年12月18日(日)> 脈 途切れることなく 送り続けるもの 脈 わたしには赤い血を 目の前の樹には透明な水を 耳を押しつけて 聞いていないと わからないくらいの 微音 規則正しい波形は 生まれたての芽から 朽ちてゆく黄昏まで わずかたりとも 休むことなく続く それにしても この美しいリズムを 父や母や そのまた父や母から 受け継ぎ 伝えられ そして 手渡し まぎれもなく 発祥の時から刻み続けるもの 脈 * 挿一輪 * 心臓に手を当ててみてください。 トクトクと規則正しく血液を送る振動を感じることができます。 生まれてからずっと片時も止まらずに続く脈。 生きている確かな証しです。 人間や動物だけでなく、樹にも脈があります。 大樹に耳を当てて水の流れる音を聞いたことがありますか。 植物もまた水をとどまることなく送り続けています。 脈のリズムはとても規則正しいものです。 それだけでなく聞いていると心地よいものです。 いのちのもつリズムの安心感でしょうか。 毎日のなかでもリズムは大切です。 調子の良いときはリズミカルに動けていますし、 なにかひっかかりのあるときはぎくしゃくとしてしまいます。 小さなことでもリズムを大切にしてください。 ひっかかりがあるときは自分のリズムを取り戻してください。 そのためには、 そっと心臓に手を当てて自分のリズムを確かめるのが一番です。 <第0591号 2011年12月11日(日)> 陽だまり あなたの陽だまりに あなたの花が咲いている あなたが忘れていても あなたの花は咲いている あなたが空を見上げていても あなたが前しか見ていなくても あなたがうつむいていても あなたの陽だまりに あなたという花は咲いている 笑顔の光を与え 涙の慈雨を与え 呼吸の風を与え しおれることなく ささくれることなく あなたのなかで まっすぐに咲いている あなたは陽だまりで これっぽっちも まごうことなく あなた自身を咲き続けている * 挿一輪 * あなたは陽だまりです。 そう思うとどんなに寒い日でも暖かくなりませんか。 暖かなあなたのなかで、 あなたは小さな花を育てています。 笑顔は太陽の代わりの光で、涙は水の代わりです。 あなたがどんなときでも咲き続け、枯れることはありません。 夢物語でしょうか。 小さなファンタジーでしょうか。 わたしのこころのなかはわたししかのぞけません。 あなたのこころのなかはあなたしかのぞけません。 ならば、 夢物語ではなく、花は咲いていると信じます。 花という形でなくてもかまいません。 あなただけの、 あなたの陽だまりのなかで、 あなたが育てているものをしっかりと見て、信じてください。 どんなときでもあなたを支えてくれますから。 <第0590号 2011年12月4日(日)> 公孫樹 来る日も来る日も くりかえしくりかえし あきることなく紡いだ 風のことば 冬じっとたたずみ 春に芽を出し 夏満面に陽を浴びて いま秋をむかえ こころのなかに 湧き出た思いを ひっそりとため ひたすらためつづけ いま みごとに色づいた 黄金色の便箋に綴って 差し出す手紙 さあ いちまいいちまい 読んでごらん まぶしげにみあげるあなた かなしげにみつめるあなた 手にとったとたん あぶり出しのように浮き出すのは あなた自身のまぎれもない 来る日も来る日も くりかえしくりかえし あきることなく紡いだ ほんとうのことば * 挿一輪 * 公孫樹(いちょう)の葉が黄色に染まります。 街路樹や、神社公園など、黄色にかがやくその姿。 いつもは気にかけずに樹の下を通り過ぎますが、 紅葉の季節には思わず立ち止まって見上げてしまいます。 かがやく黄色は四季をかけて公孫樹が生み出したものです。 毎日毎日の雨や風や陽光の記録を、 公孫樹のことばにして樹のなかにため続けた結果です。 冬に近くなりその葉をそっと手放すとき、 まるで一年の思いを綴った黄色い便箋を読んでごらんというように、 わたしたちの手元に届けてくれます。 考えてみれば、わたしたちもまた来る日も来る日も、 ことばを紡ぎ続けています。 形に残す残さないにかかわらず、 こころのなかにゆっくりと積み重なってゆきます。 わたしたちには落葉がありません。 広葉樹のようにすべてを落として冬に備えることができません。 たまったものをじっとかかえこんで重たいままに生きてゆきます。 せめて区切りをつけるためにと暦があり新年があるのですが、 気持ちを切り替えることは意外に難しいものです。 落ちてくる黄色い便箋を手に取るとき、 せめていままでの自分の思いを振り返れるようにしたいですね。 |
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