2012年4月のこびん

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<第0611号 2012年4月29日(日)>

       ポケット

         ポケットに手をつっこんだら
         こつんと触れたものひとつ
         取り出したら小さなボタン
         なくしたとあきらめたボタン
         
         あんなに探していたときは
         呼んでも答えてくれなかったのに
         緑の風にさそわれて
         出かけようとしたら手に触れた
         
         どうする引き出しで留守番か
         それともこのまま一緒に
         おひさまあたりにでかけるか
         
         琥珀色した小さなボタン
         四つの丸口が同時に話す
         行くよ行くよ行くよ行くよ


   * 挿一輪 *

 ポケットの中からは思わぬものが見つかります。
 なくしたと思った小さなボタンや、
 入れたのを忘れたまま洗濯した、定期やティッシュまで。
 
 子どものポケットは宝箱といわれますが、
 大人のポケットにもふと笑顔になるものがあると素敵です。
 
 それにしても欲しいのはドラえもんのポケットのように、
 意外な道具が出てくる夢のポケットなのですが。


<第0610号 2012年4月22日(日)>

       集める

         好きなものを集める
         高価なものではなく
         がらくたと呼ばれてもいい
         形のないものでもいい
         
         集める人にとっての
         大切なひとつひとつは
         すれちがった笑顔でもいい
         通りすがりの路地の風でもいい
         
         ふと立ち止まりきらりと光ったら
         日々少しずつこころにためてゆく
         決して色あせない宝箱に
         
         かけがえのないものたちは
         あなたに集まってくる
         あなたの輝きを連れてくる


   * 挿一輪 *

 あなたはなにかを集めていますか?
 
 だれかに自慢できるものでなくても、
 ほんのささやかなものでもかまいません。
 
 ただ好きなだけで、
 集めているときがとても楽しいだけで、
 そばにおくとほっとするだけでいいのです。
 
 あなたにとっての宝物。
 あなただけの宝物。
 
 きっとあなたの毎日を豊かにしてくれているにちがいありませんから。


<第0609号 2012年4月15日(日)>

       サクラ

         昨夜の雨風で
         地面一面に花びらサクラ
         シーソーの濡れた両端にも
         どちらが重いかと貼りついて
         
         まぶしい今朝の陽だまりに
         薄いベールを輝かせながら
         聞くことができるかな
         シーソーの歌を
         
         わずかに残った花びらを
         ふりみだすことなく
         しずかにかすかにきぬずれに
         
         青空に溶けんばかりにサクラ
         子を見守る慈母のまなざし
         遊べ遊べと光る枝々


   * 挿一輪 *

 サクラの花は嵐で散ります。
 穏やかに少しずつ散るよりは、
 突然の雨風に一夜で花を散らせることが不思議と多いです。
 
 満開のサクラも見事ですが、
 花びらの吹きだまりにもまた風情があります。
 地面一面の花びらを母なる樹はただじっと見おろしています。
 
 また来年、
 満開のサクラに会うのを楽しみに。


<第0608号 2012年4月8日(日)>

       ことば

         みつめてください
         わたしに
         ふれてください
         わたしに
         
         とおりすぎるだけでは
         記号のままなのです
         みとめてもらえなければ
         かたちのままなのです
         
         ひとつの文字が
         ことばという名の
         あたたかな手になるのには
         
         ひとつの文字が
         音という名の
         やさしい風になるのには


   * 挿一輪 *

 言葉はだれかが受け取って、初めて「ことば」になります。
 どんなに優れた言葉でも、だれも知らなければただの記号です。
 
 落ちている葉っぱも、そのままなら朽ちてゆくばかりですが、
 だれかが気がついて手に取れば、そこから物語が生まれます。
 
 みつめて、ふれて、うけとめて。
 
 そこではじめて、
 「ことば」が、ぬくもりをもちはじめます。


<第0607号 2012年4月1日(日)>

       つくし

         目覚めた春が字を書いた
         毎年おこなう書初め
         どの筆使って書こうかな
         いつもの筆で書こうかな
         
         凍った土をほぐすため
         雨とおひさまが手をかした
         すこしほくほくそのすきに
         使ってください土の筆
         
         春は最初になにを書く
         冬を越した頭でなにを書く
         空のカンバスになにを書く
         
         数え切れない土の筆で
         一気に書いた祝いのことば
         たったひとこと「はるだよ」って


   * 挿一輪 *

 やっとみつけた土筆(つくし)が一本。
 こんなに苦労をしたはずが、
 あらためてまわりを見ると土筆だらけ。
 
 最初のひとつをみつけると、
 あとは次々見つかる不思議。
 
 最初のひとりに出会ったら、
 あとは次々出会える不思議。




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