2012年5月のこびん

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<第0615号 2012年5月27日(日)>

       風になれ

         五月の風をひとつまみ
         すこし汗ばんだてのひらに
         ビー玉のように
         ころころころがす
         
         見えない風をひとつまみ
         すこしすぼめたくちびるに
         炭酸のあわのように
         つけては飛ばす
         
         天気予報はこれから雨
         そんなことはあくまで予定
         大きな樹の傘探せばいい
         
         いのちにノルマはないのだから
         溶けて揺られて遊んで消えて
         そのまま五月の風になれ


   * 挿一輪 *

 爽やかな空気と少し湿っぽい空気。
 そんな空気が合わさった風が五月の空を吹きぬけてゆきます。
 
 からだの表面もこころのなかも、
 そんな風に接すると妙にザワザワときめきます。
 
 いいではないですか。
 いま、急いでやることはありますか?
 ちょっとほおっておいてはだめですか?
 
 行きましょう、
 五月の透明な風の体温に導かれて、
 あなたの大好きな大きな国へ。


<第0614号 2012年5月20日(日)>

       うけとめる

         いつでもどこからでも
         まっすぐにとびこめるのは
         雲ひとつない空だけなのか
         波うちくりかえす海だけなのか
         
         胸にしまっておこうとしても
         ほころびるように忘れられない
         吹きつける風のくるしみ
         降りつづく雨のかなしみ
         
         ひとつ残らず身にまとい
         いっそ そのままの姿で
         まっすぐに進んでみたらどうか
         
         うけとめてくれるものは
         ほんとうにあるはずだ
         わたしといういのちそのままを


   * 挿一輪 *

 苦しみや悲しみがあまりに大きすぎて、
 いえ、たとえ小さくてもいくつも積み重なって、
 自分ではどうしようもなくなることがあります。
 
 この感情をどこかにぶつけたい。
 感情を背負ったまま自分をまるごと受け止めてほしい。
 
 そんな場所があなたにはありますか。
 
 家族、恋人、頼りになる人。
 いえ、人でなくてもいいのです。
 大空や海、大きな樹、足元の草花や、犬や猫たち。
 
 自分自身でためこまないで、そっと話してみてください。
 話すことができないのなら、じっとそばにいてみてください。
 
 その苦しみや悲しみと同じくらい大きな力強いものが、
 自分のなかから湧いてきて、
 ゆっくりと歩み始めることができるはずですから。


<第0613号 2012年5月13日(日)>

       魔法

         雨があがったら
         みんな外に出てきた
         履きふるしたくつで
         色あせてしまったTシャツで
         
         雨があがったら
         みんなキラキラしてた
         足元の小さな石も
         さびついた手すりまでも
         
         歩く音も深呼吸の音も
         鳥の声も自転車の音も
         いつもと違って輝いていた
         
         あなたの口癖も仕草までも
         雨が置き忘れた水滴と光で
         はっとするほどキラキラしてた


   * 挿一輪 *

 雨あがりは魔法の世界です。
 
 すべてが雨に洗われて光の粒がまぶしいほどにつけられます。
 小さな豆電球を一斉に灯したようにキラキラと輝きます。
 
 今までほこりにまみれていたり、色彩が地味で目立たなかったものまで、
 雨と光のおかげでその輝く姿にあらためて気がつきます。
 
 不思議なほど、そこにあるもの、に、ふだん気がついていない、
 そんな当たり前のことを教えてくれます。
 
 雨と太陽。
 
 植物たちと一緒に、こころの葉を広げて、この魔法にかかりたいですね。


<第0612号 2012年5月6日(日)>

       しわ

         右のてのひらに刻んだ時間
         強く握り締めて
         懸命に思い出そうとしても
         滲み出すのは汗ばかり
         
         左のてのひらにそっと移し
         まっしろなハンカチに
         涙をしみこませるように
         すくった写し絵
         
         このしわに残せた記憶は
         決して消えることはない
         太陽のぬくもりでのあぶりだし
         
         刻んだしわはいのちからのおくりもの
         ふと顔を上げると
         鏡に映る懐かしいひとの顔


   * 挿一輪 *

 年齢によって刻み込まれたしわ。
 
 もし、大切なことを忘れてしまって、
 どうしても思い出せないときには、
 手を握りしめれば、
 そんなしわの奥から記憶が戻ってくるような。
 
 忘れたことは、決してなくしたことではありません。
 からだのどこかにしまったまま、
 生き続けているにちがいありませんから。
 
 それにしても親子や兄弟で顔が似ているように、
 しわの形もまた、
 どこか似ているところがあるのかもしれませんね。




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