2012年6月のこびん

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<第0619号 2012年6月24日(日)>

       雨だれ

         雨だれの音が続く
         等間隔のけだるい音が続く
         強い雨だとせわしなく
         弱い雨だと眠り眠り
         
         雨だれの音が続く
         音と音のあいだの静寂も続く
         雨だれを聞き続けていたのが
         いつのまにか静寂を聞いている
         
         雨ふりの日の静けさは
         濃厚に満ちる意思を感じる
         からっぽではない重さを感じる
         
         でもその無言劇は
         雨だれの音で途切れてゆく
         約束を破った波紋のように


   * 挿一輪 *

 雨の休日、出かける当てもなく部屋にいました。
 聞くともなく雨だれの音に耳を傾けます。
 雨の降り方によって音の間隔も高さも変わります。
 
 雨だれの音を聞き続けていると
 音と音とのあいだの無音の部分に気がつきます。
 
 静寂の部分があって、そこから音が立ち上がります。
 
 確かに音があって始めて静寂を感じるのでしょうが、
 あいだの静寂があるからこそ雨の音が際立ちます。
 
 音と無音は光と影のように寄り添っています。
 
 いつもは、ある部分ばかりが目につきますが、
 時には、ない部分を意識するのも新しい発見です。


<第0618号 2012年6月17日(日)>

       目

         小さな丸がひとつ
         鳥の目 魚の目 牛の目
         横顔のこちら側の目
         向こう側の目はだれが見る
         
         小さな並んだ丸がふたつ
         猫の目 犬の目 人の目
         まっすぐ見る正面の目
         向こう側には目がない
         
         昨夜ふった雨の水たまり
         点々と続く空色の丸
         あおぎみる大地の目
         
         丸の形に切り取られた
         深い深い穴の向こうから
         こちらをのぞくもうひとつの目


   * 挿一輪 *

 毎日、無数の目に出会います。
 
 人間の目、動物の目、
 小さな石や壁の穴が偶然目に見えることもあります。
 
 目にじっと見つめられると、
 思わず目をそらしたくなったり、
 逆にその不思議さに目をそらせなくなったりします。
 
 目から逃れようとうつむくこともあれば、
 探し始めて子どものように楽しい遊びもできます。
 
 目は小さな穴ですが、
 なにが出てくるかわからない魔法の穴に違いありません。


<第0617号 2012年6月10日(日)>

       新しいカード

         毎日一枚の
         まっさらなカードを満たす
         たったそれだけの
         ちいさな自由
         
         毎日一枚の
         まっさらなカードを満たす
         途方にくれるほどの
         おおきな自由
         
         ああいつものように
         夕方の定刻を告げる
         鐘のしらべが背中を押す
         
         今日のカードは
         こんなに小さいというのに
         まだまっさらなまま


   * 挿一輪 *

 毎日、朝目覚めると、一枚のまっさらなカードを渡されます。
 今日一日、
 あなたのやりたいことをこのカードいっぱいに書いてください、って。
 
 大きさは自由です。
 小さなメモ帳の大きさの紙でもいいですし、
 大きなボードのような紙でもかまいません。
 
 ただし、白紙の部分がなくなるように、
 あなた自身ですっかり埋め尽くしてください。
 
 毎日、こうして無条件にもらったカード。
 しっかりと埋め尽くしていますか。
 
 もし書くことばがみつからなかったら、
 その日一日しっかりと生きた証しにと
 笑顔ややさしさで埋めていってもいいのかもしれませんね。


<第0616号 2012年6月3日(日)>

       向かい風

         ふと呼ばれたような気がして
         ふりかえったほほに
         話しかけるように
         吹いてくる風
         
         すこし引き返したなら
         はっきりと感じられる
         透明なことばを包んだ
         正面からの風
         
         追い風は気がつかない
         向かい風はささやきでも感じる
         不思議
         
         さてどちらに歩いてゆこうか
         風に向かってゆくのか
         風と一緒にゆくのか


   * 挿一輪 *

 歩いているときに追い風はあまり感じません。
 
 なにか忘れ物を思い出して、
 きびすを返すように戻り始めたら、
 意外と強い風が吹いていたんだな、とわかります。
 
 向かい風はほんの少しでも感じます。
 
 風に限らず、
 日常の生き方もまた同じです。
 
 さりげない応援や気遣いは気がつかないものです。
 逆に小さなトラブルや気持ちのひっかかりは、
 いつまでも後に引くことがあります。
 
 風はいつでも吹いています。
 あたる向きによって、追い風と向かい風になるのなら、
 考え方という、風のあてかたしだいで、
 気持ちの切り替えができるのかもしれませんね。




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