<第0624号 2012年7月29日(日)> くちなし あなたに伝えたかった 花開くうちに けれども あなたは太陽の笑みに気をとられ どんなに甘い匂いで誘っても ふりむいてもくれない いくつもの夕陽を重ね 伝えぬままに 純白は失われ もどかしさは積もり固まり そしてほら あなたにすら かたくなに口を閉ざす こんなにも濃い橙の実りになって * 挿一輪 * ふと道を歩いていたら真っ白な花が目にとびこんできました。 立ち止まると甘い匂いも漂っています。 開いてまもないくちなしの花です。 花の白はまぶしいほどにきれいなのですが、 すぐに黄色から茶色に変色してしまいます。 花が落ちると実がなりますが入り口がしっかりと閉じています。 くちなしの名の所以といわれているようですが、 まるでかたくなに俗世を疎んずるような実の付き方です。 きっと花開いているうちに、 なにか伝えたいことがあったのかもしれませんが、 通り過ぎてしまった人たちには、もうしらない、といった風情でしょうか。 くちなしの花が真っ白なうちに、 ちょっと立ち止まって話を聞いていれば、 固い実の前で立ち尽くすことはなかったのかもしれませんね。 あのときに気がついていれば。 あのときにもう少し立ち止まっていれば。 後になってこじれてしまったできごとは日常には限りなくあります。 ひとつ、ひとつを、ていねいに。 日常のくり返しのなかでは、 遠回りのようで、一番たしかな道のりのような気がします。 <第0623号 2012年7月22日(日)> アゲハ はじけるような太陽 の真ん中 気持ちよさそうにのびる しなやかなストロー アゲハが一羽 音もなく夏を吸っている * 挿一輪 * 炎天下にアゲハチョウが飛んでいるのに出会うと、 夏が来たんだなと確信します。 それは私だけが受け取る信号なのかもしれません。 たまたま気がつくことなのかもしれません。 あなたの夏の出会いのこだわりはなんでしょうか。 ある日気がつく海風であったり、 いつも歩く道の朝顔のつぼみであったり、 はりつくような影に落ちる汗のしみであったり、 目潰しのような金属の反射であったり。 しかし、始まりは突然やってくるようで、 実は黙々と準備をしているものです。 気がつかないのは私たちのほう。 なぜならきっかけは小さくさりげなくそっけないものだからです。 あなたのなにかとの出会いはもう始まっているはずです。 ふっと空を見上げてみてください。 そっと足元をみつめてみてください。 夏のはじまりのアゲハのように、 音もなく「そこ」に、いるはずですから。 <第0622号 2012年7月15日(日)> 7月の風 陽が出てきたからといって さおいっぱいに外に出す 雨粒が飛んできたからといって あわてて中にとり入れる すまし顔の洗濯物は なされるままにされているが 裸の王様はご立腹 すこししょっぱい南の風よ 笑いついでにその路地越えて 朝寝のくちなし からめて落とせ 添寝のきじねこ つついてどかせ * 挿一輪 * 風には匂いがあります。 風には色合いがあります。 いえいえ、風そのものは無色透明無味無臭ですが、 運ぶものによってさまざまに染まります。 7月の空はすっきりと晴れません。 大地の雨を含んだ土や草木たちと、時には重く広がる雲のあいだで、 風はあらゆるものを手にとっては、 運んでは落とし、また運んでは落としてゆきます。 7月の街角でふと立ち止まり、 自分のからだを受け皿にしてそんな風の伝言を受け取ってみる。 忙しい日常生活のあいまだからこそ、 乾いたのどに一杯の水が甘露に変わるように、 出会った風と触れあいたいですね。 <第0621号 2012年7月8日(日)> ちいさな影 浜辺でひろった小さな石を あなたはひとつころがして ちいさな石には ちいさな影が 眠るようについてきて 夕暮れ告げる鐘が鳴り うすれる影はあなたをも包み ちいさな明日には ちいさな今が ささやくように溶けてゆき * 挿一輪 * 影は光がないとできません。 そして、 影になるものがないとできません。 あなたの影は、 あなたと光の両方がそろったとき、 はじめてあなたの影ができます。 あなたの影の源はあなた自身です。 同じように、 あなたの明日の源は、 あなたの「いま」です。 あなたの「いま」がなければ、 どんなに明日の光が強くても、 あなたの明日はありません。 さあ、 あなたの明日のあなた自身の影をつくるために、 あなたは「いま」をどうすごしますか? くっきりしたあなた独自の影が大地をすべるとき、 あなたの新たな「いま」はたしかにはじまります。 <第0620号 2012年7月1日(日)> 七夕 願いをひとつ短冊に書いた じっと見ていたら またひとつ願いが出てきた もう一枚書けばいい もう一枚書けばいい ふと見上げると 七月の空は 泣きそうに目を伏せていた * 挿一輪 * あなたには願いはいくつありますか。 七夕の短冊はひとつで足りますか。 短冊がひとつしかなかったら、 そのうちどれを書きますか。 書いた後に迷いませんか。 いきなり欲張りな話になりました。 せっかくの七夕の夢が哀しくなりそうですが、 人間の欲には限りがありません。 一度、あなたの願いを全部書き出してみてください。 何枚の、いえ何十枚の短冊がいるか確かめてみてください。 でも思ったより書けないかもしれません。 具体的に文字にしようとすると少なくなります。 ただ思っているだけだと無限に広がってしまいますから。 文字にしてみること。 ことばにして確かめてみること。 忘れがちですが日常のなかで大切なことです。 あなたの「いま」を確かめるのに大切なことです。 短冊は増えてゆくのでしょうか。 それとも限りなく一枚に近づいてゆくのでしょうか。 |
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