2013年3月のこびん

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<第0659号 2013年3月31日(日)>

       抱かれています

         抱かれています
         抱かれています
         サクラのひとみに
         抱かれています
         
         抱かれています
         抱かれています
         ほの白い五弁の
         曇り空引き眉の
         ひしめきあった
         音もない想いに
         抱かれています
         
         空はもう
         飛んで来いと
         誘っています
         大地はもう
         帰って来いと
         ねぎらっています
         
         でも
         抱かれています
         抱かれています
         見上げたままの
         あなたとわたし
         もう少しだけ
         このままで
         サクラのひとみに
         抱かれています


   * 挿一輪 *

 満開のサクラの花。
 見上げると、
 花たちはいっせいに見おろしています。
 
 じっと見つめられているだけで、
 からだがあたたかくなりうれしくなってきます。
 
 サクラの花の樹の下で、
 立ち尽くすのには理由がありそうです。
 
 春を迎えた空と大地の間で、
 サクラはなにを伝えたいのでしょうか。
 あなたはなにを聞きたいのでしょうか。


<第0658号 2013年3月24日(日)>

       さくらわん

         さくらのはなの
         まんなかに
         ぽっかりあいた
         あおいそら
         まるでさくらのかいがらに
         ふちどられた
         あおいうみ
         いっそうのしろいふねが
         すべるように
         すっくとたちあがる
         ひこうきぐも
         うみか
         そらか
         わからなくなって
         はははと
         こえだしてわらったら
         わらいがうつって
         さくらのはなも
         はははと
         おおきく
         ゆれていた


   * 挿一輪 *

 青空を見上げていると、
 海と錯覚することがあります。
 
 雲に縁どられた青い湾が、
 ぽっかりと空に浮かんで、
 まるで空中からどこかの湾を俯瞰(ふかん)しているような、
 そんな気持ちに軽いめまいを感じます。
 
 雲の代わりに、
 サクラの花びらで縁どられた空の湾。
 そこに船の航跡のように、
 真っ白な線がまっすぐにのびてゆきます。
 
 それは飛行機雲。
 まるで夢を見ているような、
 美しい光景でした。
 
 ふとサクラを見上げていたら出会った光景。
 日常のなかでもこんな奇跡のような出会いがあります。
 
 考えてみれば、
 日常そのものが、
 見方を変えれば、
 毎日が奇跡の連続なのかもしれませんね。


<第0657号 2013年3月17日(日)>

       まどから

         まどから
         そらをみている
         ほそいひきまゆのような
         くもが
         どこまでも
         どこまでも
         つづいている
         うっすらと
         けしょうをほどこした
         はるのそらに
         つづいている


   * 挿一輪 *

 どこかかすんでいる景色。
 春先はたたずんでいるような空気です。
 
 やわらかな視線にさそわれるように、
 大地からは緑の芽吹きが続いています。
 
 窓から外を見ていると、
 さまざまな形の雲をみることができます。
 でも風が強いからでしょうか同じ形を保つことなく、
 次から次へとかたちを変えてゆきます。
 
 身近な景色をどんな方法でも記録してみることで、
 微細な変化がわかるかもしれませんね。
 
 日常の生活は毎日が同じようで、
 少しずつその形は変わっているに違いありません。


<第0656号 2013年3月10日(日)>

       梅花猫

         梅花の模様をつけた猫
         そろりと垣根を抜けてきた
         
         梅花の模様をつけた猫
         ひょいと塀の上に乗り
         
         梅花の模様をつけた猫
         日向で静かに目を閉じた
         
         梅花の模様をつけた猫
         梅花の数が増えてゆき
         
         梅花の模様をつけた猫
         いつのまにか花ざかり
         
         梅花の模様をつけた猫
         春の香りに溶けて消えた


   * 挿一輪 *

 梅の花が開いてきました。
 ここ数日のあたたかさで満開に近くなる樹も多くなってきています。
 
 梅の花は端正に見えます。
 その花を模様にして、
 お菓子や着物の柄など身近に見かけられます。
 
 なかには猫のからだの模様にも、
 梅の花に似た模様があるかもしれません。
 
 そんな猫が枯れ木をすり抜けてゆくと梅の花が・・・。
 春はもうそこかしこに目を開いていて、
 だれかの問いかけにすぐに飛び出そうとしています。
 
 芽の出る準備はこつこつとしておきたいものです。
 たとえなにもないように思えても、
 小さなきっかけで花が咲くように、
 あなたのなかにも春が眠っているに違いありませんから。


<第0655号 2013年3月3日(日)>

       カラス

         カラスが鳴いている
         影と光のまんなかで
         からだを折るように
         鳴いている
         
         春を待つ午後の
         家が恋しくなる
         薬指のくすぐったさを
         すくいとるように
         鳴いている
         
         だれを呼んでいるのだろう
         だれが呼ばれているのだろう
         
         ぽつんと雨粒をおくように
         夕陽が山の端に沈むまで
         カアカアカアの
         溶けるような三連符が
         小さな一日を
         ふりかえってゆく


   * 挿一輪 *

 「からす なぜ鳴くの からすは山に」
 童謡「七つの子」で唄われたカラスですが、
 どうも嫌われ者のようです。
 
 ごみ置き場のならず者のイメージが大きいのでしょうか、
 実は賢い鳥なのに、悪知恵のほうが先に思い浮かびます。
 
 でも、このカラスの鳴き声、
 憎たらしく聞こえるでしょうが、
 夕暮れの時刻に少し遠めに響いてくると、
 妙に懐かしい故郷のように感じることがあります。
 
 同じ声でも、
 時と場所により感じかたが異なるのは、
 カラスだけではないように思えるのですが。
 
 背景によって同じものもまるで違って見えることは、
 日々の生活にはたくさんあるように思います。
 よくよく観察して、
 そのマジックの種明かしを見つけてみてはいかがでしょうか。




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