2014年3月のこびん

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<第0711号 2014年3月30日(日)>

       ひそか

         見えなくても
         わかるものがある
         
         聴かなくても
         ふるえるものがある
         
         ひかりがあれば
         かぜがあれば
         つかまえられると
         思っていたが
         
         どうしても
         姿を見せない
         沈丁花
         こんなにも匂うのに
         
         ひっそりと
         音をのみこむ
         モクレン
         こんなにも揺れるのに


   * 挿一輪 *

 季節は静かに移り変わってゆきます。
 
 あらためて告げることなく、
 あなたをじっと待っています。
 
 陽だまりのまぶしさに気がついたなら、
 ふと甘い匂いに足をとめたなら、
 見上げた空の雲の形にほほえんだなら。
 
 いつでも、
 なにかに気がつくことがはじまりでしたね。
 
 生きていることは、
 きっとその連続にちがいありません。


<第0710号 2014年3月23日(日)>

       雲踏み

         雲が流れる
         青い空に
         
         雲の影が流れる
         春の草地に
         
         雲の影踏みをはじめた
         小さな足
         
         空では
         たくさんの
         なつかしい人たちが
         一緒に
         雲踏みをしている


   * 挿一輪 *

 春のお彼岸のころ。
 
 ふとまぶしくなった陽ざしのなか、
 足元を雲の影がかけてゆくのに気がつきます。
 
 見上げると、
 雨あがりの名残りの雲が次々と流れて。
 
 あたたかくなりましたね。
 
 耳を澄ますと、
 なつかしいだれかの声が聞こえませんか。


<第0709号 2014年3月16日(日)>

       春のまじない

         空に
         雲の花を咲かせ
         
         風に
         透明なじょうろを渡し
         
         陽に
         ふっくらと頬を見せ
         
         すこしだけ
         冬の背中に
         あっかんべえ
         
         春は
         固い枝の先の
         いちばん先の
         てっぺんに
         
         ふっと
         ため息のような
         まじないを
         かけた


   * 挿一輪 *

 陽ざしが戻り、
 まぶしく感じるようになりました。
 
 風はまだ冷たいものの、
 明らかに冬の陽だまりとは違う明るさに。
 
 樹の枝先の芽も、
 ずいぶんふくらんできて。
 
 そう、
 もうすぐ、
 春ですね。


<第0708号 2014年3月9日(日)>

       卒業式

         朝の光が
         からだをぐいっと
         青空のうえまで
         たかくたかく
         
         このみちを
         毎朝通ったみちを
         歩く
         弾むリズムで
         
         今日が
         卒業式だなんて
         だれにも
         伝えなかったのに
         
         梅の花は
         かがやきながら
         すれちがいざまに
         肩をぽんとたたき
         
         ちょこまか遊ぶ
         せきれいだって
         ぴかりと止まって
         くちばしを震わす
         
         ありがとう
         行ってくるね
         ありがとう
         行ってくるね
         
         わたしのなかの
         新しい光が
         青空のはじまりから
         たかくたかく


   * 挿一輪 *

 卒業式。
 
 いい響きですね。
 
 卒業式。
 
 新しいステップのために。


<第0707号 2014年3月2日(日)>

       近景

         雨がふって
         遠い山並みが
         見えなくなった
         
         雨がふって
         赤白に塗り分けた鉄塔も
         見えなくなった
         
         雨がふって
         お宮のクスノキも
         見えなくなった
         
         雨がふって
         バス通りの信号も
         見えなくなった
         
         つまらなくなって
         ふと視線を落としたら
         てのひらの上に
         不思議な街ができていた


   * 挿一輪 *

 習慣で遠くを見ることはありますか。
 
 ビルの高層階の窓からの眺め。
 小高い丘のてっぺん。
 見晴らしの良い野原。
 
 視線は遠くに導かれ、
 広々としたところでは特に、
 手元を見る人はあまりいません。
 
 毎日の生活のなかでも、
 今日明日のことよりも、
 まだまだずっと先のことにまで思い及んで、
 足元が分からなくなることはありませんか。
 
 そんなときは、
 まず手元足元に視点を戻してみましょう。
 いますぐにやるべきことと、
 ほおっておいたほうがよいこととの区別がつきます。
 
 遠い視点を身近に戻してくれる雨ふりも、
 時には必要なのかもしれませんね。




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