2015年9月のこびん

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<第0789号 2015年9月27日(日)>

       みずかがみ

         きみは
         しんとしている
         
         わたしが
         そのままうつっているから
         
         きみが
         ふとくちびるを動かし
         わたしは
         もやもやときえてゆく
         
         つぎに
         きみがしんとするとき
         
         わたしは
         ここにもどっているだろうか
         
         いつもとおなじように
         空に落ちそうな涙をためて


   * 挿一輪 *

 風のない水面は鏡のようです。
 くっきりと姿を映します。
 
 いつもそうなら気持ちがいいのでしょうが、
 風が吹いたり、
 なにかが落ちるたびに、
 波紋が水面を乱します。
 
 それでも待っていれば、
 いつかは鏡のような水面に戻ります。
 
 ゆれることが悪いわけではありません。
 
 ゆれて、また静かになってのくりかえし。
 けっして同じときは続かない、
 そのことをどこかで思っていることが大切なのです。


<第0788号 2015年9月20日(日)>

       せんたくばさみ

         つまむと開く
         はなすと閉じる
         
         ちいさなひとつの点で
         気持ちが
         ひっくりかえる
         
         黙ると開く
         話しかけると閉じる
         
         だれかのこころ
         へそまがり
         
         あんまりくりかえして
         疲れをためると
         
         ほらほら危ない
         パチンと逆襲


   * 挿一輪 *

 ついやってしまうのです、へそ曲がり。
 
 素直に受け入れればいいものを、
 一度こじれてしまうと戻ることがどうしようもならないことが。
 
 ささいなことがきっかけでも、
 行き違いが重なると収拾がつかないことになります。
 
 最初に、誤りを認めて、ちょっと立ち止まればいいものを、
 とんでもない遠回りをしてしまいますね。
 
 いつか帰ってこられればいいのですが、
 まだまだ帰る目途もたたないことさえも。
 
 時には遠回りも必要ですが、
 ほどほどにしないと帰ることさえ忘れてしまいます。


<第0787号 2015年9月13日(日)>

       虹

         ふと見あげると
         大地を引き上げる
         持ち手のように
         半円形の虹がかかっている
         
         あなたは力をこめて
         引き上げようとするのだが
         わたしと一緒に力を合わせ
         引き上げようとするのだが
         
         半円形の虹の手は
         あまりにはかなくもろいので
         触れるそばから消えてゆく
         
         それでも
         ならんでたちつくす
         あなたとわたしのつなぐ手に
         虹のことばをつなげれば
         まあるい虹を引き出せる


   * 挿一輪 *

 虹を見つけて思わず立ち止まりました。
 
 驚きとともに笑顔になり、
 あまりのみごとさに、
 少し不安になってあたりを見まわします。
 
 虹のなかには、
 ゆめとせつなさとあやうさが、
 まるで青春時代のモニュメントのように、
 つまっているような気がします。
 
 あなたはどんな虹の思い出がありますか。


<第0786号 2015年9月6日(日)>

       ならないものは

         ならないものはない
         なんでも
         ならないものはない
         
         通り過ぎていった
         たくさんの時間たち
         
         たったいま目の前に
         対峙する景色たち
         
         わたしを
         傷つけようとしたものさえも
         ひとつひとつが
         わたしの糧に
         流れる血に
         
         ならないものはない
         これっぽっちも
         ならないものはない


   * 挿一輪 *

 いかにも無駄のように見えて、
 その実は必然だったという不思議。
 
 生きているということは、
 すべてその人にとって糧(かて)になることです。




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