2016年5月のこびん

戻る


<第0824号 2016年5月29日(日)>

       風が

         風が運んでくるものは
         忘れていた遠い思い出
         ふっとひらめくように
         記憶の木漏れ日
         
         風が運んでくるものは
         しまいこんだままの夢
         引き出しの奥に
         声もなく眠っている
         
         風が運んでくるものは
         忘れていた遠いまなざし
         ふっとさとすように
         みちびく明日への背中


   * 挿一輪 *

 いつもこの次の予定や目の前の処理に追われて、
 自分を見失ったまま過ごしてしまうことが多い毎日です。
 
 疲れがたまって、ふと外に出て、風に吹かれる。
 風の音や気配にさそわれて、風に会いにゆく。
 
 風に吹かれていると、
 なにも考えずにまっさらな自分に出会えます。
 
 そして、いつか忘れてしまったことに再会することもできます。
 
 新緑がまぶしい木陰、広々とした草原、そして海辺。
 
 ほんのわずかな時間でも、お気に入りの場所で、
 あなたの風に吹かれてみてください。


<第0823号 2016年5月22日(日)>

       伏流水

         地下水のように
         流れている
         
         樹の幹のように
         流れている
         
         見ることはできない
         耳を澄ませても聞こえない
         
         血液のように
         流れている
         
         感じている
         からだのどこかで
         
         触れている
         こころのどこかで
         
         流れ続けるものは
         だれも気がつかない


   * 挿一輪 *

 見えなくても聞こえなくても、
 止まることなく流れているものがあります。
 
 知らないはずなのに、
 からだのどこかで感じています。
 
 流れ続けているもの。
 それはいのちにつながります。


<第0822号 2016年5月15日(日)>

       コンペイトウ

         コンペイトウが
         道のまんなかに
         落ちていたら
         おやっ
         
         コンペイトウが
         家のテーブルに
         待っていたら
         ぱくっ
         
         コンペイトウが
         話しかけてきたら
         目をまんまるにして
         ぎょっ
         
         コンペイトウに
         話しかけるあなたは
         とっても
         しゅっ


   * 挿一輪 *

 コンペイトウ、知っていますが。
 
 丸い突起がチャーミングな甘い甘い砂糖菓子。
 
 子どものころ大好きでした(今でも好きですが)。
 
 最近はあまり見かけないようですが、
 その形を見ると、つい笑顔になってしまいます。
 
 コンペイトウ、しゃべりますか?
 
 まだ、声を聞いたことはありませんが、
 一度聞いてみたいものです。
 
 もしも声を聞いたなら、
 勇気を出して答えてあげてくださいね。


<第0821号 2016年5月8日(日)>

       たびびと

         小さな旅をする
         遠くでなくてもいい
         
         いままで通りすぎていた
         木立のある角を曲がる
         
         いつも気になっていた
         花の咲く川の土手
         
         五月の風の背に乗って
         ひとみにとどく若葉の頃
         
         もしも雨なら
         古書店で見つけた本のなか
         
         小さな旅をする
         準備しなくてもいい


   * 挿一輪 *

 遠くへ行くことが旅とは限りません。
 
 家のすぐ近くなのに一度も足を踏み入れたことのない道。
 
 ふと開いた本のページに引き込まれた秘密の道。
 
 小さな旅は教えてくれます。
 
 あなた自身がいつでも旅に出られるということを。


<第0820号 2016年5月1日(日)>

       だれかと

         かなしみが
         くるかもしれない
         
         じっと
         みつめていなければ
         つらいのかもしれない
         
         けれど
         あしもとにめをやって
         みあげるはなをみてごらん
         
         またひとつ
         かなしみが
         くるかもしれない
         
         じっと
         ささえていなければ
         つらいのかもしれない
         
         けれど
         そらをみあげて
         くものすきまをみてごらん
         
         かなしみは
         ひとりだけでなく
         ささやかな
         だれかといっしょに


   * 挿一輪 *

 そばにいるだけでちがいます。
 
 ひとりでは押しつぶされそうなときでも。
 
 身近にだれかがいれば。
 
 人でなくても、動物でも虫でも花でも空でも。
 
 一緒になって寄り添ってみつめてください。
 
 ひとりぼっちではありません。




このページのトップに戻る

Copyright© 2016 Kokoro no Kobin