2021年7月のこびん

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<第1093号 2021年7月25日(日)>

       なつぞら


         かぜの
         こううんきが
         そらを
         たがやしてゆきます
         
         あおい
         なつまっさかりのそらに
         しろい
         うねうねがつづきます
         
         かぜが
         たねをまくのでしょうか
         だれかに
         それをたのむのでしょうか
         
         やまのはに
         むっくりとおおきなくも
         たねを
         まくばかりにまっています


         

   * 挿一輪 *

 夏の空には、さまざまな形の雲が浮かんでいます。
 
 風に運ばれて、形を変えながら、つぎつぎと進んでゆきます。
 
 山村暮鳥の詩に、「おうい雲よ」と、雲に呼びかける詩があります。
 
 どんな雲に、どんなことばをかけるのでしょうか。
 
 それにしても、種をまくのは、大地とは限りません。
 
 大空にも、あなたのこころにも、いつでもどこでも始められます。
 
 育てるということは、いのちの本来の仕事なのかもしれませんね。


<第1092号 2021年7月18日(日)>

       くちなし


         ふっとふれたくなる
         えりあしのおしろいのにおい
         
         きのうまで
         じぶんのいろにさえ
         きづかなかったあなたは
         
         みどりとしろのねじりぼう
         さなぎのようなつぼみから
         
         まっしろなころもをひらき
         さそうようによぶ
         
         あめあがりのそらは
         ひっそりとはいいろだけど
         
         おぐらいきのやみに
         なつのこどもがよんでいる


         

   * 挿一輪 *

 その甘い匂いに出会うと、白い花を思い浮かべます。
 
 くちなしの花は、好きな花のひとつです。
 
 ただ、ビロードのような白はすぐに汚れてしまいます。
 
 甘い匂いのゆえに、虫のつきやすい花でもあります。
 
 今はない実家の、隣家との境の垣根がくちなしだったのを思い出します。


<第1091号 2021年7月11日(日)>

       ここにいるよ


         ここにいるよ
         いまは
         ここにいるよ
         さっきまでは
         とりのさえずりにいて
         そのまえは
         ねこのせなかにいて
         そのまえは
         あさつゆのなかにいた
         
         ここにいるよ
         でもすぐに
         つぎにいくよ
         あるいてゆくあなたに
         ここをたびだち
         つぎをめざすあなたに
         たちどまって
         ふっとめがあって
         はなしかけたところに


         

   * 挿一輪 *

 だれかがいなくなって。
 
 なにかがなくなって。
 
 もう会えないんじゃないかと、悲しくなったとき。
 
 でも、形が見えなくても、すぐそばにいるのかもしれません。
 
 身体から抜けたたましいが、小さなモニュメントから飛び出してゆく。
 
 ふっと、なにかに気がついたら、そこにいるか探してくださいね。


<第1090号 2021年7月4日(日)>

       ともる


         そっと
         ともっている
         いつのまにか
         ともっている
         
         くらがりに
         ともるもの
         いちばん
         やさしいもの
         
         ひとりでは
         じぶんだけでは
         ともらない
         わかっている
         
         だからこそ
         そっと
         ともっていると
         たちどまる
         
         だれのため
         だれのため
         ただそっと
         ともっている


         

   * 挿一輪 *

 灯る(ともる)。
 
 光る、よりも、ずっとやわらかで、はかなさを感じます。
 
 でも、決して弱くはありません。
 
 やさしさが、実は、とても強いように。
 
 花の奥の灯のように、ひとの奥にも灯があります。
 
 それはいつも灯っています。
 
 ただ、まわりが明るすぎるから、見えないだけです。
 
 灯、いつでも、見えるといいですね。






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