2022年1月のこびん

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<第1120号 2022年1月30日(日)>

       ならぶ


         ならぶ
         みつめあうのではなく
         おなじベンチにすわり
         おなじあおぞらをみる
         だまったままでいい
         わすれてしまうほどでもいい
         
         ならぶ
         かぜにのってとりがまう
         みずにのってひかりがまう
         じかんってひつようかな
         ひとつひとついらないものを
         ベンチのしたになげすてる
         
         ならぶ
         あなたをみることはしない
         あなたもみることをしない
         それでもあなたがわかる
         じっとみつめあうよりはるかに
         あなたのおとがきこえる
         
         ならぶ
         ならんでいる
         なあんにもなあんにもいらない


         

   * 挿一輪 *

 向かい合って座るのが、苦手です。
 
 視線を正面から受け止めるのが、苦手です。
 
 並んで座ると、少しほっとします。
 
 緊張が、少しずつ解けてゆきます。
 
 人間の正面って強すぎる、のでしょうか。
 
 構えてしまう自分の弱さが嫌な、のでしょうか。
 
 並んで座ると、いつのまにか、景色の一員にすっと溶けこめます。


<第1119号 2022年1月23日(日)>

       あたたまる


         あたたまる
         こごえたてを
         あかくはれたゆびを
         ストーブのひに
         ひだまりのまどべに
         
         あたたまる
         かたまったしせんを
         きがつかないおとを
         キラッとするひかりに
         ふいになきかわすとりに
         
         あたたまる
         ばしょもわすれたこころを
         かわききったるいせんを
         とおくにみえるはるの
         すこしいろづいたつぼみに


         

   * 挿一輪 *

 凍えるような寒さの日が続きます。
 
 ほっとするのは、あたたまるとき。
 
 それは、暖房器具だけではありません。
 
 思わず触れる気づき、やさしいこころづかい。
 
 でも、いちばんあたたまるのは、春の訪れの、きざし。
 
 身体も、こころも、ゆっくりとあたためて、待ちましょう。


<第1118号 2022年1月16日(日)>

       えらぶ


         えらぶ
         きりばなをいれる
         いちばんきらめくように
         いちばんよろこぶように
         
         えらぶ
         りょうりをいれる
         いちばんほほえんだように
         いちばんつつまれるように
         
         えらぶ
         ことばをいれる
         いちばんのびのびするように
         いちばんかたりあえるように
         
         えらぶ
         わたしをいれる
         いちばんここちよくなじむように
         うまれそだったふるさとのように


         

   * 挿一輪 *

 この世の中にある、数えきれないもの。
 
 生きている間に触れ合えるものは、ほんのわずかのものです。
 
 この広い宇宙から、なにを選んだらいいのでしょうか。
 
 花を生けるときに、花器を選びます。
 
 料理を盛るときも、器を選びます。
 
 ことばもまた、いれものを選びます。
 
 話しことば、書きことば、方言もあれば、定型もあります。
 
 わたしの伝えたいことば、それにいちばんふさわしい入れもの。
 
 無数の花器や皿から選ぶように、ことばの入れものも自由に選んで。
 
 入るものがいちばんいいなと思った器、それがベストです。


<第1117号 2022年1月9日(日)>

       ふる


         ふるよふる
         おりてくるのはそらのいき
         かぜのせなかのこどもゆれ
         
         ふるよふる
         みあげるかおはみなおなじ
         かあさんだってとうさんだって
         
         ふるよふる
         おりてもすっときえてゆく
         おいでぎんいろからころも
         
         ふるよふる
         ちいさなあすをあけたとて
         おおきなまどをあけたとて
         
         ふるよふる
         わたしのこころのすきまには
         ただひとひらもつもりゃせぬ
         
         ふるよふる
         じゅうにひとえのあかよりも
         ふるさとあおにかえりたや


         

   * 挿一輪 *

 雪がとめどなく降って、見渡す限り真っ白に。
 
 降る雪を見上げる顔や、積もった雪を見つめる顔は、だれもみな同じ。
 
 雪はいつか降りやみ、積もった雪も溶けて空に帰ります。
 
 未来永劫降り続く雪は、記憶のなかの世界だけ。
 
 降る雪を見ていると、子どものころの遊びを思い出しませんか。


<第1116号 2022年1月2日(日)>

       はじまる


         はじまる
         いまのいきをはくように
         
         はじまる
         てのひらでつつむように
         
         はじまる
         そっとかげをふむように
         
         はじまる
         つかむひかりの お
         
         はじまる
         やわらかくみちびく て
         
         はじまる
         から はじめる
         
         はじまる
         このつぎのいきをすうように


         

   * 挿一輪 *

 一から始めようとすると、大きなエネルギーがいります。
 
 なにかをきっかけにして、それに乗っかって始めるとスムーズに。
 
 動き始めの風に乗ると、すっと加速できるように。
 
 はじめる、は、まず、はじまる、から。






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