*** 10月の詩 ***

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      魚


魚が虹色に光るのは
光と水の境だからだ

油が虹色に光るのも
ウインドサーフィンの帆が虹色に光るのも

だれかが釣った魚が打ち捨てられて
そのうろこが虹色に光るのも
小さな異界との境だからだ

考えてみればぼくたちは
いつも生と死の境を歩いているのに
どうして一向に光らないのだろう

何かにはっと気づいたときだけ
かいまみる境の輝きを
どうしてすぐに忘れてしまうのだろう

ぼくたちも本当はいつも光っている
ただ
みんな忘れたふりをしているだけなんだ
底知れぬ淵の境を
目を閉じて光を追い出しているだけなんだ

魚が虹色に光るのは
はるかむかしから
約束された境にそって
ずっと泳ぎ続けているからだ



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