***  1月の詩  ***

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 踏切


踏切が姿を消してゆく
線路と交わる点が消えてゆく

なぜ関わり合いを避けるように
ゆずることを卑下するように
小さな優しい待ち時間を
不便でいらいらするものに変えてしまうのだ

線路の下をくぐるときは
暗渠になった下水のように
暗くほこりっぽいバイパスを
追われるように早足で通り抜けるのだ

線路の上をまたぐときは
見知らぬ町の空間のように
前を見ながら通り過ぎてゆくのだ

走り去る電車の中でさえ
誰もが耳をふさぎ
異次元の入り口に語りかけ
遠い想像の世界に住んでいる

ただ
踏切の警告音がなつかしいだけではない
下がる黄と黒との棒を惜しむだけではない
踏める線路の鉄の感触が好きなだけでもない

踏切が姿を消してゆく
じっと待つ顔が
通り過ぎる電車の車両を数える顔が消える
電車の窓に吸いついた顔との出会いが消える

通り過ぎた後の
踏切の向こう側からやってくる
幼い頃の自分との再会を失うのが哀しいのだ



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