手紙 ぼくたちは生きているあいだ 毎日手紙を書き続けている たとえ住みなれた家であろうと 小さな白いベッドの上であろうと ふと立ち止まった分かれ道であろうと ありあわせの紙に指のペンを使おう どんなに貧しくても どんなに時間がないときでも 自分だけの文字をつづる 書きあがった手紙は 息で作った封筒に入れて置こう 気持ちのいい晴れ渡った空にでも 雨に濡れる街路樹の葉の上にでも ぼくたちはこうして絶え間なく 生きている証しを だれかに報告している 書くことで確かめあっている いつか手紙が書けなくなる日がくる ぱたりと風が止まるようにペンが止まる日がくる そのときこそ 大好きなペンと一緒に ぼくたち自身が白い封筒に包まれてゆく 宛名は書かない 差出人も書かない そのままそっと いちばん好きな場所に置いておかれる ぼくたちの文字は だれかのこころのなかに 小さく小さく溶け出してゆく ほかのだれかが手紙を書くとき 寄り添うようににじみだすのさ そうみんな 生きているあいだ 毎日手紙を出し続けている |
空あります 海抜28.2mの表示 ぐるりとフェンスをめぐると 空あります そっけない手書きのボード 思わず空をみあげる 空は だれかがあげた 大きな青い凧でおおわれ 耳には一瞬の静寂をおいて 校庭でドッジボールを追う子どもの歓声 ぼくはもう少し海抜を上げようか下げようか しゃがんでダックスフンドになってみたり フェンスによじ登ってガリバーになってみたり どこでも手をのばせばとどきそうな 空はたしかにそこにある ふと目の前を白い車が横切り 手書きのボードを曲がってゆく 砂利をひいただけの駐車場 そうか 空あります か ぼくは笑いがこみあげて止まらない おかげでほんとうの空が見えた しゃがんでもよじ登っても距離の変わらなかった空が 大きくぼくをつつみこんだ だれか止まれ 空があるから いいやこんな砂利だらけの空き地じゃない 吸いこまれそうなこころのなか 大きな大きな あなたのための 空あります |
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