***  2月の詩  ***

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 手紙


ぼくたちは生きているあいだ
毎日手紙を書き続けている

たとえ住みなれた家であろうと
小さな白いベッドの上であろうと
ふと立ち止まった分かれ道であろうと

ありあわせの紙に指のペンを使おう
どんなに貧しくても
どんなに時間がないときでも
自分だけの文字をつづる

書きあがった手紙は
息で作った封筒に入れて置こう
気持ちのいい晴れ渡った空にでも
雨に濡れる街路樹の葉の上にでも

ぼくたちはこうして絶え間なく
生きている証しを
だれかに報告している
書くことで確かめあっている

いつか手紙が書けなくなる日がくる
ぱたりと風が止まるようにペンが止まる日がくる
そのときこそ
大好きなペンと一緒に
ぼくたち自身が白い封筒に包まれてゆく

宛名は書かない
差出人も書かない
そのままそっと
いちばん好きな場所に置いておかれる

ぼくたちの文字は
だれかのこころのなかに
小さく小さく溶け出してゆく
ほかのだれかが手紙を書くとき
寄り添うようににじみだすのさ

そうみんな
生きているあいだ
毎日手紙を出し続けている



 空あります


海抜28.2mの表示
ぐるりとフェンスをめぐると
 空あります
そっけない手書きのボード
思わず空をみあげる

空は
だれかがあげた
大きな青い凧でおおわれ
耳には一瞬の静寂をおいて
校庭でドッジボールを追う子どもの歓声

ぼくはもう少し海抜を上げようか下げようか
しゃがんでダックスフンドになってみたり
フェンスによじ登ってガリバーになってみたり

どこでも手をのばせばとどきそうな
空はたしかにそこにある

ふと目の前を白い車が横切り
手書きのボードを曲がってゆく
砂利をひいただけの駐車場
そうか
 空あります


ぼくは笑いがこみあげて止まらない
おかげでほんとうの空が見えた
しゃがんでもよじ登っても距離の変わらなかった空が
大きくぼくをつつみこんだ

だれか止まれ
空があるから
いいやこんな砂利だらけの空き地じゃない

吸いこまれそうなこころのなか
大きな大きな
あなたのための
 空あります

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