***  7月の詩  ***

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 月食


月が
もうすべてかくれたというのに
地上は
明るすぎます

犬が
少しおびえてなきます
かき消すように
バイクの音が通り過ぎてゆきます

かくれたものはなんだったのでしょう
このまま
ずっとつづいても
だれも不思議には思いません

まるで
ずっと奥のほうで
しんと眠りについた
いやされない哀しみのように

眠ることを忘れた
観覧車
ゆっくりと
地球は回り続けます

細い筒からのがれるように
同じ顔で戻ってきたのは
月のふりをした
あなたです



 百合のつぼみ


百合のつぼみは
さなぎ
あんなにむっくりとふくれて

花なんか咲くものか
花の精をすべて吸い取って
寄生しているんだよ
大きなさなぎが

塩気をたっぷりふくんだ海の風が
合図を送る夜
白い体を食い破るように
そろそろ羽化をはじめるか

得体の知れない
化け物がかえるにちがいない

今のうちだよ
まっぷたつに断ち切るのも
たたいてつぶすのも

そうしないと
いまにおまえものっとられるよ
おまえの花が咲く前に

ほら
巨大な化け物が羽化するのさ
記憶をこわす音を立ててね





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