***  11月の詩  ***

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 夢


それはささやかなもの
目の前の
たとえば陽だまり
そっと歩みを進めること

夢に大きさは必要がない
ひとつひとつ
めざして
かなえて
そしてまた次

ずっと向こうまで見えなくていい
そんなに遠くまで見ていたら
足元が怖くなって
その場から一歩も動けなくなってしまう


すぐ目の前で手を差し伸べてくれる
ささやかな近さがいい
歩み始めた幼子が
母の手を求める距離がいい

はるか彼方を見続けないこと
気がついてふと振り返ると
そっと見送る昨日の自分

うなずいて前を向いて
その繰り返しで
人は生きていけるのだから


 音


音は呼吸する
たたく音
すわる音
ハレツする音
逃げてゆく音

まるで大きな肺の中にいるように
吸って
吐いて
深呼吸する音

音は体をたたく
音はこころをゆする
すぐに振り向いても
しばらく気がつかなくても
生きている自分のどこかが
反応する

夢にだってやってくる
生まれる前でもやってくる
もしかしたら
死んでしまったあとにでも

音はひとつひとつの波だと
人間の科学は説明する
うんうんとうなずきながら
その動きからも音が出る

音は呼吸する
呼吸するすべてのものを
振り向かせることばだから


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