***  4月の詩  ***

戻る


 魔法のランプ


魔法のランプは目の前にある
ランプをこすり召使いを出して
あとは
願いを告げるだけ

そんなこと
きっとだれでも知っている

知っていたらすぐ
何も考えずにためしていた
子どものころのあなた

ちらっと見つめて
まさかと笑いながら立ち去るのが
いまのおとなのあなた

しばらく忘れていたけれど
魔法のランプはどこにある
思い出してごらん
ずっと一緒にあなたのなかにいた

子どものときはこすっていたけれど
たまにランプがおへそを曲げて
出てこないこともあったのさ

そんなことが重なって
もうあのランプを見つけても
こすってみようともしないんだ

魔法のランプは信じるランプ
信じきってこすらないと
召使いは出てこない

さあ久しぶりにやってみるかい
召使いよ出ておいで
力の限りこするから


 菜の花川


土手の内側にいつのまにか
流れてきたのか飛ばされたのか
落ちた種が発芽して
いまはみごとな菜の花畑

明るい小さな太陽のように
たそがれどきでもそこだけ明るい
その明かりがわたしを立ち止まらせ

帰りかけた哀しい今日が
肩に手をそっとおかれて顔を上げる

どんな小さなできごとでも
けっして止まることなく動いている
たとえこの菜の花が
だれの目にもとまらなくても
菜の花は開いたにちがいない

わたしが見たから菜の花だったのではない
菜の花はたしかにここに咲いている

今日わたしが生きたことは
だれもしらなくても
わたし自身が知っている
どんなに暗いたそがれどきでも
ほのかに明るい菜の花とおなじこと

なにもない川の土手に
わたしの種がひとつ落ちて
わたしの花が咲いてゆく

流されても流されても
つみかさね
いつかみごとな花の群れに

菜の花川になることを
信じて



Copyright© 2005 Shiawase no Kijun