***  5月の詩  ***

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 残像


車椅子の祖母
塗りのはげたテーブル
少しかしいだウッドデッキ

すき間から這い出るつた草
虚空をつかみ踊るもの
虫のふんを残して茎だけのもの

 あのな
 あのいちばん高い山のあたり
 カマノだよ

二匹のモンシロチョウ
つかず 離れず からまり 離れ
栗の花の匂い

羽を休めるハチ
止まることのないアリ

湿った南西からの風
ひ孫が二人
汗の匂いでおいかけてゆく

 小さなハイキングだね
 小さなハイキングだったね

車椅子の握り手の汗
三つの世代の汗
どんなに強く握っても
かしいでゆく時間が止められない

空には
いっぱいの五月の空
遊び暮らした日差しが走ってころんで
閉じた目じりにかける
小さな 虹

ハンカチは思い出のポケットから
でも
このわずかな水滴でさえ
どうやって吸い取るのかがわからない

もうすぐ空は群青色をつれてくる
もうすぐ空はたしかなコマをひとつすすめる


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