***  9月の詩  ***

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 秋の


秋の陽だまりを歩いた
光と影に
半分ずつ体をあずけながら歩いた

稲の実りのうえを
風が渡り
赤ん坊のまるまるとした体のうえを
並んで歩く老夫婦のうえを
風が渡り

ひっそりとたたずむ農家の無人スタンド
修復中のお寺の赤銅色に光る屋根
咲き乱れる庭先のコスモス

なにか目的があったわけではない
たずねられたら
理由はあとからつけたせばいい

ほんとうは
こころの見えるところすべてにまで
秋を満たしてみたかったから
細胞の境界線を解いて
これ以上蒸留しようのない
秋とひとつになりたかったから

だれかに話をしたら笑うだろうか
導くようなアキアカネも
風に揺れているキリンソウも
穂を出し始めたススキも笑うだろうか

澄みきった秋の
陽だまりのなかを歩いた
いつだって奥深くに目覚めていた
自分のなかのふるさと

見つめる瞳に抱かれるような
胸に顔をうずめるような
ああ 秋の



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