***  10月の詩  ***

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 休館日の美術館にて


休館日の美術館の庭に
ぽとりと枯れた花が落ちる
ふいに鳴きはじめたこおろぎ
秋の空を雲が流れる

街中の騒音は
遠いうねりになって鼓膜を揺らす
目を閉じているわたしは
風を受けている
まるで海をのぞむ丘の上のように

ずっとこのままでいたい
でも 目をあければ
海は消える

本を読み始めると
たしかに別のドアを開けられるが
最後のページを閉じてしまうと
ドアの外に押し出されるように

二度と同じところには戻れない
見たままの景色が似ていても
時間の旅はかくれんぼすら許さない

体温のぬくもりの残るベンチから腰を上げ
屋外彫刻に触れながら
別れをつげる
ひとつひとつていねいに

生きていることは
こうして
自分に良く似た姿に後を託して
思いを次へと移すことなのだろうか

落ちた花が足元にたまり
風が止まった
さあ もう振り返らずに
あしたのわたしを捜しに行こう



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