***  9月の詩  ***

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 九月


ぽっつりとひとつ
ぷっくらとふたつ
むっくりとみっつ
風の空に帰るほど大きく雲

足もとにひとつ
目の高さに二匹
木漏れ日の瞬く音のしぶき
おなかにはやわらかな鎧

うつむいてひまわりひとつ
下からのぞきこんだら笑顔
おぼれそうな青のふちどり
見え隠れする赤い塗箸三本

私が九月を好きな理由は
夏の置手紙が
日焼けした胸のすきまから
切手もはらずに届けられるから

研いだばかりの
群青色の細身のナイフで
封を音もなく開いたあとの
南の潮風のことばをかいだから

お元気で
またいつか会う日を楽しみに

そんな気はこれっぽっちもないくせに
淡い色ガラスに守られて
空蝉の夏は小さな額縁のなか

別れたあの人のように
ほんのりと色あせた時間
いつまでも止めたまま

ガラスの表面をねぶる爪
あわてて駆け出す背中であかんべー
小憎らしいほどコトリと九月






9月の詩 九月

9月の詩 九月

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