***  8月の詩  ***

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 樹陰のふたり


その樹陰の木漏れ日は
翡翠色のシャボン玉
手元に開く文庫本に
スポットライトゆれる

その樹陰の朗読は
トパーズ色の筆跡
目を閉じたほほに
透明なアゲハ舞う

風は大きな樹そのままを
葉も小枝も新しい芽も
ひとつの家族のように
慈しみつつみ

皺だらけの手に不釣合いな
けれど明晰なアルト
ベテランの歌姫のように
なじみの物語の舞台を
よどみなく綴ってゆく

夏の朝のベンチに
寄り添っている光の輪郭
ふたりだけにわかる
時間軸の蜃気楼を
眠るねこのように従わせ

解き放たれたことばたちは
笑顔という名の句読点と
ふたつのまぶたの上で遊び
白い杖の上でとまり
洗いざらしのズボンのひざで休み

ああ額装されたふたり
汗の光を涙のように膨らませて

天井の見えない青い画廊に
またひとつ新しい絵を求めて
空が大きな翼をひろげている








8月の詩 樹陰のふたり

8月の詩 樹陰のふたり

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