***  11月の詩  ***

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 待つ


待つ
朝目が覚めて
今日という日の始まりのときに

液晶の向こうからのメールでもなく
注文したものが届くのでもなく
懐かしい訪問者でもなく

こころづもりがなくても
閉め忘れた窓の隙間から
秋の風が忍び込むように
ごく薄い皮膚の感触で
待つ

本当は希望に満ちているつもりで
どこかで小さな不幸を期待して
そのすべてを
置き忘れたふりをして

飲み込むことも
投げ捨てることも
メモの暗号に残すこともなく
やぶにらみの
目の隅の涙のように
待つ

もし
生きているささやかな日常が
待つということばから
隠れ蓑のように避けられたなら
どんなに
秘め事が色あせるだろう

待つ
夜寝床にはいって
明日の朝という
新しい生死の岐路を
かきこわした闇の皮膚のように
無造作に捨て去るふりをして
待つ








11月の詩 待つ

11月の詩 待つ

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