***  1月の詩  ***

戻る


 広がる


自分の輪郭を溶かしたら
あなたはどこまで広がるのだろう

少しすべりの悪くなった窓を開け
郵便のバイクの音を待つ路地を抜け
気の早い凧の揚がる土手を目指し
伸びることなく
ちぎれることなく
あなたは広がる

陽だまりにまどろむ猫のひげをなで
かしましいふくらすずめの電線の下を通り
時間の几帳面な分子の配列をすり抜け
増殖することなく
あなたは広がる

マッチ棒を知らない少年が
薬屋の紙風船を知らない少女が
異次元との仮想に溶けるなか
顔をしかめることなく
その顔を整えることなく
あなたは広がる

五十六億七千万年後に現れる菩薩の思いを
耳鳴りのような声明に閉じ込め
まみえる日常の光と影を
たった一点の網膜に刻み
音のしない鈴をハンカチに包んで
あなたはどこまでも広がる

怖がり不思議がり嫌悪して
ころがりそっぽを向き諦めて
陰影の境に立ち止まるようになってはじめて
枯れた蔦のような一面の皺に
いのちという時間のささやきを染みこませ
あなたは高くも深くも
広がることを笑みの泉と知る

ほらこの星はあなたで覆われている
広がる無数のあなたたちで覆われている








1月の詩 広がる

1月の詩 広がる

Copyright© 2011 Shiawase no Kijun