***  2月の詩  ***

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 ツル


ねえ見てツル
あなたは突然振り向く

いまにも雪の降りそうな空
その雲の切れ間から
ペーパーナイフのような陽ざしが
ベランダから乗り出す
あなたの肩に切り込んでゆく

ほらじっと見つめている
あなたの瞳はいたずらっぽく動く

近くの川では白い鷺を見た
それにしてもツルがこの地まで来るとは
今冬の寒さは
それほどまでに厳しいのか

色を塗ったら飛行機のマークみたいね
あなたの声ははしゃぐように高い

立ち上がって肩越しにのぞき
わたしは小さく声をあげ
にやりとしながら
光の明滅するセーターの袖先を突っつく

ね、ツルでしょう
さ青の羽を広げた首をかしげたツル

白い工事用の網布に大きなつばさを広げ
青空に切り抜かれたように
たしかに一羽のツルが首をかしげている

雲の流れに翻弄されるように
ふと現れたり薄くなって消えかけたり
風のいたずらで隠れたり顔を見せたり
たぶん見ている二人以外に
気がつかれることもなく

冬日の一瞬の輝きの紙芝居を残して
ツルは刷くように布網の空に溶けてゆく








2月の詩 ツル

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