***  10月の詩  ***

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 曼珠沙華


反り返った真紅のまつげ
朝方の雨で
洗ったばかりの

白い雲の着物を
かき集め始めた爪
色を秘めた秋風に誘われ

生まれたばかりだというのに
なにかに追われ
ささげつくすように

衣服を身につけるのも
もどかしげに
約束の時間に訪れた
曼珠沙華

刈り取ったばかりの
台風過ぎの
あっけらかんとした土手に

こうして並んで座っていると
おまえのあこがれる
空の大きさが
深呼吸のようにからだを巡る

おまえはずっと
見あげている
白い着物をかきとられた
秋の空の素肌を見ている

真紅の爪を持ったとしても
螺鈿の線すらつけられない
紺碧の素肌を見ている

曼珠沙華は欲しい
始まった飛行機雲のように
まっすぐに伸びてゆく
その身を引き上げる
ただ一筋の道が








10月の詩 曼珠沙華

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