***  6月の詩  ***

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 風〜消える記憶


胸のポケットに
格子に光るこびんを忍ばせ
風待ち坂を歩いてゆく

あなたは風が見えないと
うつむいたまま帰ってきたが
見えない風をどうしても
あなたに渡してあげたいから
陽が昇ってから落ちるまで
行ったり来たりでさがし続ける

すくった記憶が見えないのは
こころも風も同じだから
しっかり手元にたぐり寄せて
つなぎとめればいいのだろうか

けれどもこびんにとめたなら
風は風でなくなって
こころはびんの形に添って
擬態のなかにもぐりこむ

気がついたときは目の前の
色あせた街のジオラマが
とっておいて忘れてしまった
チョコレートのように怪しく白い

風待ち坂は声を待つ坂
ここに来るのは遠い風だけ
過ぎたばかりの風は幻
いつまでたってもおぼつかない

ほら見てごらん目の前を
あなたのいまが流れてゆく
ほら見てごらん目の前を
あなたのこころが消えたゆく

こびんのふたはしっかりしめて
胸のポケットに入れてみたけど
種のなかった手品のように
格子に光る風が溶ける








6月の詩 風〜消える記憶

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