***  9月の詩  ***

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 秘密


秘密をひとつ
胸のポケットに入れて
炎天下に飛び出した

秘密の重さは
光のなかでは羽のようで
風を起こせば空に舞う

けれど足元をふと見ると
張りつくように小さな影

しなだれるように
ぞろりとおりてきた
秘密の影

あわてて
樹陰の濃い影にとびこんだが

溶けて隠れた秘密の影は
ちらちら木漏れ日の
大きく深い影のなか
きっちりちりと広がって

抜き足差し足いまのうち
逃れるように走り出し
立ち止まって見たならば
秘密の影は
ひょろりと伸びて
路地の先までなめてゆく

日が沈むまで
汗いっぱいに歩き続け
やっと遠くで影を捨ててきた

からのポケットのままで
家に帰ってみたならば

秘密がひとつ
ドアの前で
お帰りなさいと待っていた








9月の詩 秘密

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