***  11月の詩  ***

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 11月のカンナ


カンナの花が立っていた
カンナの花がただ立っていた

まるで
古いタイルの間の目地に
朱の染料が飛んだように
ビルとビルの間に
ひっそりと立っていた

カンナの花はだれかを待っている
タバコをふかしもせずに
携帯をいじりもせずに
つぶやかず
目を落とさず
それでいて
まっすぐに覗き込む陽ざしにも
ただ静かに立っていた

ぼくはどうしてここにいるのだろう
ここに来るまでのことと
ここから次に行くことと
それは説明できるのだが
カンナの花に立ち止まる
いまの理由がみつからない

古本屋の棚に西日がさして
ずいぶんくたびれた本の焼けた背が
この世に一冊しか残っていない
幻の本に変わるように
止まらぬ時間を身にまとい
それでもカンナの花は立っていた

カンナを溶かす朱の色は
母の視線のようにとぎれない
11月の夕刻が
どんなに早く群青の幕を引こうとも
どんなに冷たくその花を裂こうとも

カンナの花が立っていた
カンナの花がまっすぐに立っていた








11月の詩 11月のカンナ

11月の詩 11月のカンナ

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