***  3月の詩  ***

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 早春


クスリ
と笑った

うつむいたうなじに
染みこむように
笑った

ほんとうは
霜柱を踏む音と
息を吸って吐く音と

どこか遠くで
だれかがだれかに呼びかける
ことばのかけらが
ひかっているだけの
いつもの
あさ

ほら
クスリ
と笑った

このくすぐったさは
いつだったか
アカギレの指を
赤いミトンの手袋に
泣き笑いして入れたときか
それとも
プックリふくれた指を
赤いミトンの手袋に
そっと入れてあげたときか

クスリ
と笑った

耳の後ろから聞こえた
少しだけあたたかないたずらが
こんどは
たしかに
わたしのなかから
融けだしてきた








3月の詩 早春

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