***  6月の詩  ***

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 立っている


もうずいぶん長い時間
あなたの前に立っている

足元の陽ざしが影に溶けて
帰ってきた陽ざしにであうまで
あなたの前に立っている

風が吹いて梢が声を上げて
空の雲が通りすぎても
あなたはちらっとも見てくれない

沈黙からはなにも始まらないと
あなたは教えているのだろうか
ではなんとことばをかけていいか
くちびるにはかけらすら生まれない

もうことばを忘れるくらい
あなたの前に立っている

立ち去ってもいいんだよ
そんな拒絶のことばさえなく
あなたはまっすぐに立っている

ふっと風が止まり音が消える
意識があなたから離れるたびに
無言のあなたは梢をゆらす

伝承に語られたように
白昼夢にだれかが現れるわけではない
ただ目の前に変わらぬあなたが

時間が消えるくらい立っている
こうして触れることはできる
いつまもでもここにいることもできる

あなたは前に立っている
消えたことばのかわりに
あなたはいのちとして立っている
そのことだけを教えるために









6月の詩 立っている

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