***  9月の詩  ***

戻る


 クロアゲハ


ふっと風が動いて
あなたがあらわれた

まだ浅い朝の陽の
スポットライトをあびた
みずみずしい緑の舞台に

ひと夏使いこんだ衣装を
少し誇らしげに飛びながら

白い小さな花たちは
風の予感を知っていた

待ち続けた雨の日も
開いては閉じ
咲ききっては落ち

だれひとりとして
疑うこともなく
あなたの風を待っていた

待つということは
こんなにも静かなものだろうか
目を大きく見開いて
じっと待ちつづける
張りつめた静かさがあるのだろうか

あなたは風を動かして
白い花たちを廻っている

呼びかけの詰まった静かさに
残った力でこたえるように

葉のすきまから
一本の木漏れ日がまっすぐに降りて
ひとつの白いスポットが輝く

あなたは衣装を整えて
最後の役を演じ始める
うつむく夏の背中を感じながら









9月の詩 クロアゲハ

Copyright© 2016 Shiawase no Kijun