***  6月の詩  ***

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 栞(しおり)をください


階段をゆっくり降りる太い杖
老いたからだを支えるように
踊り場で小さなため息

いたわるようにさする左の腕
かたわらを魚群のようにすり抜けてゆく人々

そのとき
大切な本に栞を挟み込むように
そっと通されたあなたの細い腕
いぶかしげに見上げる小さな顔

でも こくりとうなずいたあとに
あなたの何倍もの時間
夢を追い続けていた目元から
ゆっくりと柔らかく
にじみでるように
はにかみの笑顔がひろがる

一緒に歩き出したあなたの腕は
どんなにささやかでも
決して忘れることのない
一本の細長い栞

あなたの栞をください

見つめるのを忘れてしまったわたしの瞳に
たたずむのをやめたわたしの胸に
しっかりとはさみこむ
栞をください

だれかを信じることができなくなったとき
だれをも信じることができなくなったとき

いつでも
この頁を開けることのできる
ひとすじの
光る栞をください



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