***  7月の詩  ***

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 夏を


夏をむかえる前の夜
暑く湿った南西の風が
わずかにふっと眠る夜
群青色の闇にまぎれて
風鈴をゆらす風が来る

だれもがどこかうずくもの
たとえばうなじのすこし下
なにかにさそわれてあのころの
忘れた詩を口ずさむ

泣き笑いのあとにくる
つんとぬけるすっぱさに
小さな時間の架け橋を
ひょいとくぐった隠れ道

気がつけば

いまだ続いている物語
くりかえしする石蹴り遊び
あのときあれだけ切なくて
見えなかった明日は宝物

ほころぶことのまぶしさが
夜だからこそ感じられ
ほのかに匂うくちなしの
つぼみのはじらいはいつまでも

綿ゴミ詰まったポケットから
忘れたことばが出てきたら
やわらぎくゆらせ羽化せよ風
よりそう影の姿に変えて
夏をむかえにたちのぼる

ふりむけば

もういいんだここにいて
帰ることも行くことも
迎えることも発つことも
もういいんだここにいて








7月の詩 夏を

7月の詩 夏を

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