***  10月の詩  ***

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 秋天


空は
梨の果肉色でおおわれて
破裂しそうな驟雨を待っている

ぽつりと
夜の山道に一つ残る電球のように
おき去られたキタテハの羽

包まれた皮膚の内側で
汗がゆっくりと動きはじめる
まぎれもない予感

十月という名のプラットフォーム
夏行きの最終が出発してから
もうどのくらいたつのだろう

透明な弦が続いている
光が当たれば音もなく浮かび
音が触れれば波紋を描き

するどい爪先が斜めによぎる
降りそそぐ水滴の群れが
われさきにと風を放つ

嫌われたもの
好かれたもの
はにかむものたちまでが
結晶のように固く手を組む

もうだれも止められない
止める必要もない
時間の転がる先に
どんなドアも置けない先に

大きなうねりが来る
水ではない
大地でもない
澄んだ澄みきった秋の
途切れることのない
いのちのひとみが








10月の詩 秋天

10月の詩 秋天

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