***  9月の詩  ***

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 泣くことができなくて


泣くことができなくて
雨のなかに飛び出していった

かなしくて仕方がないのだが
どうしても
泣くことができなくて
雨のなかを歩いていった

とめどない雨の粒が
わたしの涙のように思えて
親しい友のように思えて

雨粒に溶けるように
泣くことができるのなら
かなしみが少し消えるのかと

それでも泣くことができなくて
雨のなかで立ち止まって
葉にふるふると盛り上がった
雨粒に触れて落とし続けた

涙はかなしみを消すのだろうか
雨はかなしみを癒すのだろうか

指先についた透明な雫は
わたしの目を映し続けた
目はかなしみの出口ではなかった

夏の日差しに疲れた皮膚は
雨の粒に濡れていたけど
ひっそりとした部屋の遺影は
百合の落ちない花粉に乾いていた

泣くことができなくて
雨のなかに飛び出していったのに
泣くことができなくて
雨のなかにただ立ち尽くすだけ

どこかでしべの揺れる音がして
どこかで雨粒の膨らむ音がして









9月の詩 泣くことができなくて

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