***  5月の詩  ***

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 大きな樹


  もし 旅立ちが 五月なら
  大きな樹には 気がつかなかった

はるか彼方に大きな樹
見つけたとたんに惹きつけられる
羅針盤の針の向きは
葉に光る空を指し示している

その樹には名前がない
特別ないわれやお墨付きもない
田んぼの畔のそば
古びた祠の屋根の代わり

通る人はきっと知っている
お隣さんのように顔を見知っている
風に乗る声も聞きなれている
葉のすれる匂いもわかっている

でもあれは誰だったのだろう
急な雨に傘を貸してくれたのは
うつむく肩を温めてくれたのは
いちばんの笑顔を光の信号に変えたのは

風の吹かない日は一日もない
朝陽が昇らない日も夕陽が沈まない日も
空が見えない日も一日もない
覆う意識のベールを気にしなければ

大きな樹はまっすぐに立っている
大きな樹は堂々と立っている
そうだれかに誇らしげに話されるまで
樹はどれだけ樹を生きてきたのだろう

はるか彼方に大きな樹
見つけたとたんに教えられる
からだの軸はまっすぐ樹を示している
見ているわたしもいのちだった

  もし 旅立ちが 五月なら
  大きな樹には 気がつかなかった









5月の詩 大きな樹

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