***  8月の詩  ***

戻る


 たより


たよりはふっとやってくる
ふわっと花がひらいたすきに
たよりは背中にそっと触れる
ひらいた花が焦がれるように

たよりに思わず飛び上がる
買って最初の目覚まし時計のように
たよりは子どもの目をしてる
ことばにできないうるんだ目を

たよりは目の前を行き過ぎる
ほら通り過ぎるふりをして
たよりは決して視線をはずさない
遠くを見て知らんぷりしても

たよりがつくと時間が止まる
目の前の空間に扉ができる
見たことのないはずの深い扉
けれど不思議な懐かしい扉

たよりの髪には秘密の匂いがする
だれか髪をとかす櫛をください
たよりをからだに受け入れるまで
たよりを飛ばす風が吹く前まで

膝に上ったたよりをどうしよう
立ち上がって振り落とそうか
どこかの引き出しにしまおうか
蜃気楼のように消してしまおうか

たよりの襟足を見てみたい
寝っ転がって透かしてみたい
紙飛行機にして飛ばしてみたら
ちぎって万華鏡に入れてみたら

たよりはもう戻すことができない
飾ることも捨てることも忘れることも

わたしにできるひとつのことは
たよりと並んで扉をあけるだけ









8月の詩 たより

Copyright© 2018 yumegoro (shiawase no kijun)